いよいよ面接が始まり、ギルベルトの手元にも資料が配布されている。
それを見ながら、人事の人間がいくつかの決まった質問をしているのを聞いた後、各部署の担当からそれぞれ思い思いの質問をぶつけると言う形の面接なのだが、ギルベルトの目の前には今、何人か目の面接を終えて、例の童顔の青年が座っている。
ただし…某難関大学の主席である。
たいした秀才だ。
どうやら本当に間違ってこちらの面接会場に来てしまった広報部の広告のモデルではないらしい。
面接官の側からすると、もう何度も聞きすぎて聞き飽きた質問が終わったあと、人事部の課長が
「それでは人事からの質問は終了です。
各部署の担当から何かありますか?」
と、振って来た。
大抵はここで自分の部署に欲しいと思う人間が質問をする。
この時に質問がないイコール欲しがられていない…つまり不合格と思って良い。
さて、今回の坊ちゃんの場合は、さすがに難関大学の主席なだけに、いくつかの部署から質問が飛ぶ。
ここからが本番ということは何か察したのであろう。
青年はさきほどまでより、やや緊張した面持ちで、それでも飛んでくる質問に卒なく答えていた。
そして最後
「他には?質問がある部署は?」
と見渡す人事部員に
「開発部だ」
と、ギルベルトは手をあげた。
最後まで待っていたのは、より印象付けたかったからだ。
面接が終わるとその日のうちに内々に合否が出され、合格者には部署の希望を取る。
もちろん絶対にその希望通りになるわけではないが、希望部署に著しい偏りがない場合は、おおよそ希望部署に回されることになっているので、こちらが欲しい場合はあちらに来たいと思って貰う事が重要だ。
そのためには他の部署との差別化を図らなければならないとギルベルトは考える。
だからまず最初に反則技を使うことにする。
「開発部の課長補佐ギルベルト・バイルシュミットだ。
課長から部の人事を一任されている。よろしくな」
と、端正な…と言われ続けてさすがに自覚のある顔に笑みを浮かべ、そして言った。
「開発部ではカークランド君を欲しいと思っている。
出来れば開発部を希望してくれると嬉しい」
うあああ~~!!!と、彼を狙っている部署の面接官が一斉に焦った顔をギルベルトに向ける。
そんな爆弾を落としておいて、彼らが我に返って文句を言い始める前に、ギルベルトは始めた。
「さっき廊下で見てた。
すっ転んだ学生を助けてただろ。
男子学生の鞄からいきなりソーイングセットが出てくるとは思わなくて驚いた」
と、笑顔で言えば、それまで緊張しつつも平静さを崩さなかった青年の顔が朱に染まる。
初めて崩れた表情に、ギルベルトは内心してやったりと思った。
他の部署のことなど思いだせないレベルでの印象付けはある意味成功だ。
だが、一応ここは面接会場なので質問の一つくらいはしなければならない。
そこでギルベルトは少し揺さぶって見ることにした。
「で、質問だ。
転んだ学生はスーツは汚れてボタンは取れていた。
まああの服装の乱れだと面接で落ちていた可能性が高いな。
そうしたらライバルが1人減るわけだが、何故手を差し伸べようと思ったんだ?」
面接のハウツー本には載っているはずもないイレギュラーすぎる質問だ。
さあ、どう答える?と、ギルベルトは興味津々で答えを待った。
青年の方もさすがにそう来るとは思ってもみなかったらしい。
ちょっと目を丸くして、それから少し視線を落として1分弱ほど考え込み、そして顔をあげた。
「御社の募集人数が一名ではない以上、彼の合否が私の合否を左右する可能性はそう高いものではないと考えました。
一方で自分の負担にならない範囲で手を差し伸べる事で、もし同じ会社の同僚になれた時に良好な関係を保つ事ができると思います。
もしどちらかが御社にご縁がなかったとしても、プラスがないだけでマイナスはありませんし」
ニコリと笑みを浮かべる青年。
それにやや意地悪かと思いつつも、
「助けた時にそこまで考えてたか?」
と、にやりと笑って言うと、青年はとても困った顔で
「…いえ。単にとても困って見えたので…」
と、眉尻をさげる。
そんな素直な表情もギルベルト的には好感が持てた。
「よしっ!合格!
基本は善意で。
でもそこに理由付けが必要ならきちんとそれらしい理由を考えられるのはいいことだ。
ということで、俺様からの質問は以上!」
と、そこで切りあげると、青年はホッとしたように小さく息を吐きだした。
まあ合格も何も、始めから彼を取る気は満々だし、もしギルベルトが取らなかったとしても複数の部署から引く手あまただろう。
その後
「ちょっと時間取っちまったな。次よろしく」
と、促せば、変わったやりとりを興味深げに見守っていた人事担当者は慌てて青年を退出させて、次の学生の入室を促した。
そして…ギルベルトの目論見通り、青年は唯一、自分を取るつもりだと言って最終的に合格という言葉を使った開発部なら入れるのだと思ったのだろう。
開発部に希望を出してきたので、ギルベルトは無事取りたい相手をキープできたのである。
とある白姫の誕生秘話始めから
0 件のコメント :
コメントを投稿