ギルベルトはネットゲームも始めて長いし、そんな事はわかりすぎるほどわかっていて、そのあたりは割り切って遊んでいるはずだった。
なのにこれはなんだ?
今自分がお姫さんに感じている感情は…
馬鹿げている。
ネットゲームのキャラクタに入れ込むなど、本当に馬鹿げているとギルベルトは自分に言い聞かせて見た。
確かにお姫さんは可愛い。
さらさらの金色の髪に大きく丸い子猫のようなグリーンの瞳。
真っ白な肌も華奢な手足も、確かにギルベルトの好みの容姿ではある。
だが、これはゲーム上で作成されたキャラであって、リアルの本人の容姿とは全く関係がない。
ほぼ近づく可能性はないにしろ、これがドラマや映画の女優ならこの容姿の人間は実在はするわけだが、完全にデジタル上でメイキングされたキャラなのだ。
この容姿の人間なわけではない。
それどころか、性別も年齢もわからない相手だ。
使っているのが初老の男性という可能性だってあるのだ。
もちろんギルベルトは同性愛に関して否定はしたりはしないが、自分が同性をそういう意味で見られるかと言うと別物だ。
実は今まで特定の恋人という相手を持った事はないのだが、そういう相手として思い浮かべるのは可愛い女性で、異性愛者だと思う。
(…でも…そこじゃないんだよな…)
色々自身の中で列挙して来た条件を、さんざんあげたあとにギルベルトは自分で否定した。
自分が惹かれているのは、お姫さんのそういう部分ではない気がする。
だって可愛いだけの女性はリアル周りにだって大勢いたのだ。
こう言ってはなんだがギルベルトはモテる方だ。
学生時代から成績は良かったし、幼い頃から親の教育で鍛錬を欠かさなかったので、運動もできるし、やや細身ながら筋肉がしっかりついてスタイルも良ければ、顔立ちだって悪くはない…というより、イケメンと言って良い部類だ。
観察力には自信があるので、ある程度空気も読めて、友人だって少なくはない。
だから告白を断り続けて来たから付き合った事がないだけで、決して相手がいなかったわけでも、周りに女性がいないなどで縁がなかったわけでもないのである。
でもお姫さんは、少なくはない周りにいた女性達とは何か違う。
彼女自身も自分の気持ちも…
一生懸命で真面目で、他人に極力迷惑をかけないように自分のことは自分でやろうと努力する姿勢が好ましくて、でも無理はして欲しくないし、そんなお姫さんが唯一無条件に甘えられる存在になりたい…
それがお姫さんを連れて最初のギルドを出てからずっと彼女に感じ続けている感情だ。
ギルベルト自身は効率を重視する人間で、基本的には自他共に怠惰や甘えは好きではないし自立した人間が好きだ。
だから周りにはフォローはしても極力自分で出来るように無条件に甘やかしたりはしないのだが、お姫さんにはそれをしてやりたくなる。
黙って甘やかされてくれないのはわかってはいるのだが、甘やかしたいのだ。
おそらくリアルで容姿がこんな美少女でなくとも性格がこのままだったら付き合いたい、リアルでも色々してやりたい…そんな事を思っている時点で、色々末期だと思う。
ギルベルトがそんな事をつらつらと考えている間にかわされているキロとアリアの会話。
『あ~ちゃん、なんでセイジ入れちゃうかな?
本当にあいつストーカーなんだってっ!危ないよ?』
『大丈夫っ!ミアさんがお好きなだけでしょうし。
あれだけ可愛らしい方を見てたら、他に目なんか行きませんよ』
相変わらず根拠のない自信満々のお姫さんにギルベルトはやはり
(この危機感のなさ、リアルだとどうしてんだろうなぁ…)
と頬杖をついてディスプレイをみつめる。
そんなギルベルトの目の前のディスプレイの向こうでは、相変わらず2人の会話が続いていた。
『うん。ミアが可愛いのは確かだけどね。
あ~ちゃん、今、ミアの周りでもにこいちで可愛いって評判なんだよ?
そもそもしょっちゅうミアの側に居て攻撃来ないのはそういう理由だから』
と、会話はなかなか聞き捨てならない方向に。
『今回もさ、俺が来れたのは高レベルのシーフでトレジャードロップがついてるのもあるけど、俺だけあ~ちゃんだけじゃなくてギルと繋がっててギル方面から声かけたからで、実はミアの周りでは集団で押しかけてあ~ちゃんに迷惑かけないようにってミアから戒厳令ひかれてるからね?
そうじゃなきゃ、アラが1分で埋まってるよ?』
『ふえぇ…??』
『俺はミアが一番だけどね。中にはあ~ちゃんにちょっかいかけたくてウズウズしてるのもいるから』
…うん、そういうのがポップしたら叩きつぶそう…
ディスプレイの前で笑顔で震えるギルベルト。
握ったコントローラが恐ろしい事にギシギシときしんだ音をたてている。
『でも…でもですね、セイジさんはそういう意味では大丈夫ですよ?
ミアさんにしか興味ありません』
『その根拠のかけらもない自信はどこから?』
『だってね、今回後輩のナイトさんも連れて来て下さったんですけど、その方に私のことを“妹みたいな存在”と言ってらしたらしいので…』
『あ~ちゃん…』
『はい?』
『今すぐ逃げて』
『…はい??』
『それあいつのターゲットに入った時の最初の段階の言葉だからっ!!』
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とある白姫の誕生秘話始めから
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