とある白姫の誕生秘話──髭とシーフと竜騎士と2

──ギ~ルっ、お姫さん、広場でシャウトしてるね。手伝ってあげないの?

ヘルプと言えどもお姫さんのイベントだ。
狩りの時にはいつも食べる、自分の能力値をあげるための食べ物を作っていると、突然来るtell

相手はキロ。
お姫さんの姫フレのミアの取り巻きのナイト三大勢力の1人だ。
先日一緒に狩りをしてから、なにかと声をかけてくる。

しかしそこで他と違うのは、お姫さんを誘う場合は必ずギルも一緒にとギルを通して連絡をいれてくるところだ。

そのあたりでお姫さん個人に粘着する気はないのだろうと、あまりに多いお姫さんのストーカー達にいい加減警戒心もマックスになっているギルも少し安心し始めている。

ギルの中では彼は今やどちらかと言えば自分のゲーム内の友人枠だ。

そんな気楽さで
──行かねえわけねえだろ。待ってる間にせっせと飯のドラゴンステーキ作り中
と、答える。

──ふ~ん。魔法狙いなら俺も行こうか?トレジャードロップ欲しくない?
と、それに申し出てくるキロ。

トレジャードロップとは文字通り、敵がドロップ品を落とす確率のあがる、高レベルのシーフがいると常時自動発動をするアビリティだ。

──欲しい。来てくれ。
と、ギルは即答。

──おっけ~!誘って!
と言う言葉に、ギルはお姫さんからリーダー権限を借りてキロをパーティに誘った。


──よろしくなっ。メンツ揃うまでもうちっとかかりそうだから、適当に暇潰しててくれ

と、キロにそう挨拶をして再度食事作りに勤しもうとしたが、

──ギル…お前気づいててスルーしてたりすんの?
と、キロから不穏なtellが来て、思わず手を止めた。

──へ?何をだ?
──アライアンスにヒゲいるけど?
──ヒゲ?
──セイジ
──マジかっ?!!


アライアンスは6人パーティが3パーティ、計18人。
お姫さんは主催で第一パーティにいて、ギルはお姫さんの護衛役なので常に同じパーティ。
そしてあとはノアノアと今誘ったキロ、そしてギルドのナイトの5人が第一パーティにいる。

第二、第三のパーティに関してはそれぞれ野良の希望者の白とその知人のヘルプ、もしくは純然たる金稼ぎで参加する野良ヘルプで埋められるものだと思って、全く気にしていなかったのだが、キロの指摘によくよく他のパーティに目を向けて見れば、確かに第二パーティにセイジという名前のナイトがいる。

まあ珍しい名前でもない。
だが70ナイトでわざわざお姫さんの募集に乗って来ているということは、あのヒゲだろうとは思って、念のため、第一パーティしか聞こえないパーティ会話で
『お姫さん…第二パーティのナイトのセイジって、あの髭ナイトか?』
と、聞いてみた。

『ええ、そうですよ。
さっき手伝って下さるとtell頂いたので』

ギルベルトの心配をよそに全く警戒心の欠片も持たないアリアに、ギルベルトはリアルでガックリ肩を落とした。

本当に本当になんなんだ…と、思う。
リアルを含めて今までこれほど自分を振り回す相手には会った事がない。

おそらく十中八九わざとではない。
馬鹿な天然を演じるなら、ここまでレベル上げでもイベントでもきっちり計画をたててリーダーになって仕切ったりはしない。

頭はたぶんとても良い。
ただ、著しく警戒心に欠けている。

お育ちが良いのか、リアルでも自分のように胃をキリキリ痛めながらも守り続ける相手でもいるのか…。
と、思った瞬間、もやりと嫌な気持ちが心の奥底からわきあがった。

そして、
(…え??)
と、自分で自分のそんな感情にギルベルトは驚いた。


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とある白姫の誕生秘話始めから



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