とある白姫の誕生秘話──新たなる伝説の始まり1

例によってワールド商事の社員食堂。
ギルと本田がランチをしている。

「ジジイ…塩分少し控えた方が良くねえか?」
と、塩分に塩分を重ねたような本田のトレイに呆れた目を向けるギルベルトに

「爺は塩じゃけと漬物と味噌汁と心中するなら本望です」
と、きっぱりと忠告を否定する本田。

ギルベルトはそれに一瞬物申したげな視線を送るが、結局それは自分が強要すべきところではないと割り切って口をつぐんだ。


そんな複雑な表情の部下の前で、ああ、美味しい…と、食後も塩分たっぷりの漬物を食べつつ緑茶をすする本田。

まあ、食べたい物が食べられていれば、うるさい事は言わない上司なのでやりやすいと言えばやりやすい。

しかも趣味も同じ…というか、同じゲームの同じギルド。

「そう言えば、ギルベルト君、最近は彼女も落ちつきましたか?」
と、本田は思い出したようにふと湯呑を口に運ぶ手を止め、ぐちゃぐちゃと芋を潰すのに没頭していたドイツ系の青年に視線を向けた。

「あ?」
と、綺麗な紅い目を本田に向けるギルベルト。

それに本田が
「アリアさん。その後ケイトに絡まれたりしていませんか?」
と、言うと、彼は
「ああ、それかぁ…」
と、端正な顔に複雑な表情を浮かべて見せた。

「おや?何かまだケイトが言ってきますか?」
と、その表情に気づいて小首をかしげる本田。

元が童顔なのもあって、そんな動作をすると7歳も年上の上司には見えない。
むしろギルベルトの方が年上の上司のようだ。

そんな本田の容姿は良いとして、ギルベルトがそこで綺麗な形の眉を寄せて小さく息を吐きだすと、2人を遠巻きに見ていた女子社員の間に黄色いざわめきが広がった。


容姿端麗で仕事も出来て面倒見のいいバイルシュミット課長補佐は当然ながら女性にもモテる。
大変人気で昼食に同行したい女性は多いが、多いがゆえに牽制しあって、結局自分以外の女がその隣に座るくらいなら…と、ほぼ毎日のように同性の課長と昼食を摂っているのに皆ホッとしている。

──いつも何を話していらっしゃるのかしら…
──本田課長と一緒って事は仕事のことじゃない?
──そうよね。何か難しい顔をしていらっしゃるし…
──でもそんな表情も素敵……

などと囁き合う女性陣は、その話の内容がよもや2人が共にやっているネットゲームの話題だとは思ってもみない。



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とある白姫の誕生秘話始めから


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