ギルベルトはそれにきづいて和田に少し笑みを浮かべてうなづく。
小澤光二氏には光一氏という一卵双生児の兄がいます。
予約を受けた日…旅館側は小澤光二氏本人から当日の夕食が不要という旨を伝えられていますが、これもおそらく兄の光一氏、そして午後5時20分、すでにその前に殺されている光二氏の部屋でフロントに電話をかけたのも兄の光一氏です。
これによって犯行推定時刻が午後5時20分以降と言う推論が覆されます」
「理屈的には確かに不可能ではないけど…あまりに奇想天外すぎない?」
ギルベルトの話を黙って聞いていた面々の中で、澄花がそういって笑い出した。
「漫画じゃあるまいし、何を根拠にそんなありえない理論を思いつくかな」
「根拠ならありますよ」
ギルベルトはあくまで淡々とそれに返した。
「遺体は刺殺された状態で浴槽で発見されてるわけですが、それとは別に犯行現場になったと思われる寝室に犯人は何故か被害者が持参した全ての服に…ご丁寧にクリーニングの袋のままの服すら引っ張りだして被害者の血をつけてそれを切り刻んでばらまいているんです。
それは…おそらく被害者を数回に渡り刺した時に返り血がつかないように、犯人はまず被害者を眠らせてから被害者の服を着込み被害者を刺殺して被害者を浴槽に運んだ後、着て来た自分の服に着替えて返り血がついたものはもちろん、血がついてないものは血をつけて、切り刻んだためです。
それは一つには奇行で、また犯人が返り血がついた状態で外をうろついたというわけではないという事を隠す事によって捜査を攪乱するため、一つには時間がかかる犯行であった事を印象づけてアリバイをより確実にするためという、様々な理由があったと思われます。
もちろん、全ての服には本人の指紋がついていて、その他ついていた毛髪、その他全て本人の物だったため警察は犯人の思惑通りに受けとったわけですが…」
「ちょっと待ってよ。
なんで寝かされてから刺されたってわかるの?
それにそれだけじゃ同じ遺伝子持ってる人間の犯行って証拠にはならないでしょ?
単に指紋がつかないように手袋でもして髪が落ちない様にしてただけかもしれないじゃない」
途中で澄花が口をはさむ。
それに対してギルベルトはチラリと和田に目をむけた。
「遺体発見時…被害者の衣服はボタンが飛んでたりとかかなり乱れていて部屋もかなり争った形跡があったそうですが…被害者の爪の間には相手の服の繊維や他人の皮膚など、誰かと争ったなら当然残るであろう物が一切付着していなかったそうです。
以上の事から被害者は抵抗する間もなく殺された、つまり、眠らされた後殺害されたという推論が成り立ちます」
おお~~~と言う歓声がお気楽OL3人組からあがる。
「すご~い、カッコいいね、ドラマの主人公みたい♪」
という声に少し苦笑して、ギルベルトは続けた。
「次に…もう一つの質問に対してですが…
さきほど言った通り散乱していた切り刻まれた服には全て被害者の指紋がついていたんです」
「そりゃ、つくでしょ。自分で用意してるんだから」
ギルベルトの言葉に澄花はあきれたように腕組みをして言う。
「そうでしょうか?」
ギルベルトはその澄花に視線をむけた。
「中には”クリーニングの袋をやぶいて出したシャツ”もまじってたんですよ?」
「それがどうしたのよ?むかついたから全部切り裂いてやろうと思ったんじゃないの?」
当たり前というようにため息をつく澄花にギルベルトは言った。
「袋がやぶかれたのは犯人によって…ということは、犯人が袋をやぶくまではシャツは密閉された袋に入っていたんです」
「…!」
澄花がハッとしたように口に手を当てた。
「そう…被害者はそのシャツに限っては袋ごしにしか触ってないので、シャツ自体には指紋はつかないんですよ。
ところがそのシャツのボタンには被害者の指紋がはっきり残っているわけで…。
以上、犯人が被害者と同じ指紋を持つ人物で、ゆえに指紋がつかないように気を使う必要もなかったので素手で犯行に及んだ時、被害者がつけられるはずのない場所に指紋をつけてしまったという推論が成り立ちます」
全員がシン…とする。
「じゃあ…犯人は小澤光二氏の双子の兄、小澤光一と言う事に?
一体彼はどこに?」
和田がギルベルトに先をうながす。
ギルベルトはそれに対して
「全員の指紋調べればわかりますよ」
と、表情を変えずにうつむいた。
「一応…説明しますか?」
ギルベルトの言葉に和田は
「もちろん!」
とうなづく。
それに小さく息を吐き出してギルベルトは淡々と話し始めた。
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温泉旅行殺人事件始めから
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