温泉旅行殺人事件_迷探偵のアリバイ崩し5

その時携帯が振動する。和田からメールだ。
昨日聞いた情報について調べてくれたらしい。

小澤光二42歳。埼玉県出身。

家族は両親と双子の兄光一だが、現在、父親は他界、兄は1年ほど前から行方不明で、埼玉の実家には母親が一人で暮らしている。
仕事は銀行員。高学歴高身長高収入と3拍子揃ったいわゆる3高だが独身。
都心のマンションで一人暮らし。

留守電はそのマンションの自室に設置されていたもので、マンションは侵入された形跡なし。
マンションの防犯カメラにも怪しい人影は一切移っていない。

…ということで、ほぼ電話に細工された可能性はないとのことだ。


氷川雅之はここから山二つほど越えた村で農業を営んでいる。
現在46歳。15年前に澄花と結婚というのは本人の申告通りだ。
ほぼ村から出る事もなく、澄花の方がこちらに来た時に知り合ったと思われる。
ゆえに…小澤との接点はない。

氷川澄花は旧姓前田澄花。埼玉出身41歳。
孤児院の出で結婚までは看護士をやっていたとのこと。
光二とはその頃に患者と看護士として出会い付き合い始めるが光二の浮気が原因で破局。

その後5年間、こちらで起こした自動車事故をきっかけに雅之と知り合ってこちらで暮らしていたらしい。
結婚後はこちらでやはり看護士として働いているので、少なくとも15年間は小澤との接点はほぼないと思われる。

お手上げだ…。

ギルベルトは天井を仰ぎ見た。


「ギル…ご飯はちゃんと食べよう?」
食欲はないが、愛しのお姫さんのそんな言葉をギルベルトが無視するなんて事はできるはずがない。
なのでしかたなしに朝食に箸を伸ばす。

「フェリに電話で聞いたんだけど、ここの旅館はご飯が美味しい事でも有名ならしい。
海も山も近いから山海の珍味がいっぱいだ
宿泊客のほとんどがそれ目的でくるくらいだってことだから食べないなんてありえないぞ」

にこやかに言ってお茶を入れた湯のみをギルベルトの前に置くアーサー。


確かに…朝から通りいっぺんの朝食メニューじゃなくて、なかなか手がこんでいる。

白米、味噌汁、焼き魚、香の物という朝食の定番の他に、焼き物がもう1品と煮物、お浸しの他にも、冬だからか1人用の鉄鍋にあつあつのおでんまである。

いつものように淡々と規則正しく三角食べをする可愛い弟と、好物を前にした子どものように幸せそうな顔で食事を頬張る最愛の恋人。

ああ、確かにこんな楽園状態の中で美味しい食事が食べられるのにしかめつらをして考え込んでいるのは、馬鹿だ。

そう思いなおしてギルベルトも熱いうちにとおでんをほおばる。

というか…せっかく旅行に来たのにこれまで事件続きでゆっくり食事を楽しむ余裕なんて全くなかったので、こんなに味わって食べたのは初日の夜以来だ。

が、そこでふと思いつく。

え…ちょっと待てよ…

ギルベルトはまた箸を置いた。

「お姫さん…ちょっとフェリちゃんに旅館の女将に聞いてみてくれるよう頼んでくれ。
事件当日、小澤さんは旅館側に軽食かなんか頼んでたのか?」

ギルベルトの言葉の真意を全く気にする事もなく、フロウはフェリに電話をかけた。

そして携帯を切ると
「昨日の質問と一緒に調べておいてもらって、お昼までにはメール送ってくれるそうだ。
ギルのメルアドを旅館の側に教えちゃったみたいだけどいいよな?」
と、首を傾ける。

「ああ、ダンケ。その方がありがたい」
「じゃ、そういうことで…いい加減ちゃんとご飯食べようっ」
と、アーサーはギルベルトにまた箸を握らせた。



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