ギルベルトは手を枕にしてゴロンと寝転んで天井をみあげた。
「大丈夫…ギルはいつでも間違ってない」
そのギルベルトを上から見下ろしてアーサーが微笑んだ。
生まれて初めて好きになった相手で…その相手が奇跡的に自分の事を好きでいてくれて…側にいてくれる。
「お姫さん…」
「うん?」
呼ぶと天使の微笑みと共に降ってくる声も可愛くて…
自分は浮気する事なんて一生ないという事だけは自信がある…とギルベルトは思う。
そう言えば…ルートのメールで雑談かもしれないが雅之に自分とフェリシアーノが浮気したらどうする?と聞かれたとか言ってたが…。
真面目にありねえ…とギルベルトは思った。
逆だったら…自分どうするかなぁ…とさらに考え込む。
もしアーサーがルートを好きだとか言い始めたら…
お姫さんの願いは何でも叶えてやりたい。
でも世界で一番、唯一愛おしい恋人を、例えそれが自分が可愛がって育てた弟だろうと、他の男に渡せるだろうか…
もちろんギルベルトの脳内では、こんなに可愛いお姫さんに好きだと言われたら、他にどれだけ素敵な恋人がいようとみなギルベルトのお姫さんを選ぶことは当たり前のことである。
そう考えた瞬間、ギルベルトはふと思った。
自殺した親友には…彼氏とかいなかったんだろうか…。
いたらショックだろうなぁ、浮気された挙げ句に自殺されたら、と、さらに悲観的な方向へ向かうギルベルト。
自分だったら絶対にあと追うよな~と、またどんどん思考がずぶずぶと暗い方向へ沈んで行く。
「ギル…もしかして何か暗~い事考えてたりするか?」
いつのまにか自分の横にうつぶせに寝転んだ恋人の顔がすぐ横にあった。
「そんなに俺様暗い事考えてる様に見えてるのか?」
と、その言葉に自己の抑制が出来ていなかったか…と、一瞬落ち込むギルベルト。
でもそれも仕方ない。
他の事なら完璧に出来る自信があるが、大切な大切なお姫さんのこととなれば、動揺しない男などこの世にいない。
いたらおかしいとギルベルトは思った。
すり…と、恋人の小さな手が遠慮がちにギルベルトの手に重なる。
恥ずかしがり屋のお姫さんにしては珍しいな…と、思ってそれに視線を向ければ、
──あの……
と、少しためらったような声。
──…ん?
と、視線を今度はその顔に向ければ、ほんのり染まった頬。
少し反らされる視線。
そして恥ずかしそうに告げられる言葉…
「あのっ…強くて何でもできるギルも、色々に悩むギルも全部ギルだから…全部まとめて好きだから…な?」
普段恥ずかしがり屋で自分の思いを告げるのが苦手な恋人が、ギルベルトが悩んでいるのでは?と思って告げてくれた精いっぱい。
ああ、もう反則だ…と無言で赤くなるギルベルト。
最近…エリザにしばしば”天使の奴隷”とか言われたりもするのだが、もう奴隷でも何でもいい。
恋人がする事ならなんでも許せる気がしてくるし、アーサーがしたい事ならなんでもさせてやりたい、と思う。
「で?何考えてたんだ?」
アーサーはそんな事を考えているギルベルトに、可愛いクルクルとよく動く瞳で問いかける。
「ん~…例の自殺したって言う親友の女性の方には恋人とかいなかったのかなぁと、ふと思った」
そしてギルベルトがそのあとを付け加える暇もなく、
「ん~、じゃ、フェリに聞いてみてもらおう?自殺したのこの近くなら、旅館の人間なら知ってるかもだし」
と、アーサーは起き上がった。
そして止める間もなくまた携帯を手に取って電話をかけている。
別に事件がどうのとかと思ってたわけじゃないので、こんな時間にわざわざ聞く事でもないんだが、アーサーは現在ギルベルトが考えている事イコール事件の事と取っている…いや、関係ないか。
ギルベルトのお姫さんはそんな取捨はしない。
単にギルベルトが疑問に思ってる事があるから、知ってる人にきいてあげようと、すごく単純に思っただけに違いない。
もう時間が0時を回ってるとかそういう事も全く関係なく…。
「あ~フェリ、20年前このあたりの崖で自殺した女性って…彼氏とかいたか、旅館の人に聞いたらわからないか?地元の人じゃなかったらたぶん本館泊まってたんじゃないかと…」
あ…なるほど。
このあたりは温泉郷ではあるんだが、このあたり一体がこのグループの土地で温泉街とは少し離れている。
まあ…彼氏うんぬんは別にして、動機を探る上で氷川澄花と小澤の過去がわかるとありがたい。
「調べてくれるって」
お姫さんは電話を切るとそう言って小さくアクビをした。
普段はとっくに寝てる時間だ。眠いのだろう。
というか、その場にコロンと横たわって、次の瞬間コテンと眠りに落ちている。
ギルベルトはそのお姫さんを抱き上げてベッドに運ぶと、自分はその下に座り込んだ。
そこでギルベルトは再び事件の考察へとスイッチを切り替える。
ウジウジ悩んでいても仕方ない
犯人が氷川夫妻というのは決定事項として考えを進めて行こう。
間違っていても、また推理し直せばいいのだ。
お姫さんがこうして腕の中で安全でいるのだから、急ぐ理由もない。
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