ブラザーコンプレックス_9_ブラコン騎士の苦悩2

さて、ブラコン全開になることにしたところで、まず何をするか…

「アルト、ちょっとこっちに来い」
「うん?」

ギルベルトが両手を広げると、なんの疑問も抱かず近づいてくる可愛い弟。
それを玄関先で抱きしめる。

ふわりと香る薔薇の香りはシャンプーとセットで使わせている高級なボディソープの匂いだ。
ギルベルト自身はというと…リンスと一体化したお手軽なシャンプーと牛乳石鹸。

そう、自分自身は普通に清潔感を保てればそれで良いのだが、弟は天使なので天使に相応しいものをと吟味し尽くしたチョイスがそれだった。

可愛い可愛いアルト。
自分がどれだけ大変な思いをしても、弟だけはこの世で一番安全な心地よい場所で幸せに過ごさせてやりたい。

10年前、両親の再婚で小さな小さなアーサーに一目惚れをしたあと、少したった頃に父親に聞いたのは、どちらも自分自身の人生と仕事を大切に思い過ぎていた両親は、アーサーが産まれてからもどちらも子どもに向き合う時間を取れなかったということだ。

そして自身の仕事に重きを置く多くの男性がそうであったように、アーサーの父親が彼の妻に、社会人であることよりも子どもの母親であることに重きを置くことを望んだことが、2人の離婚の原因だったらしい。

幼い頃からそんな自分をめぐっての両親の言い争いを目の当たりに育って来たアーサーは、子どもの割には聞き分けの良いギルベルトの目から見ても、諦めの良すぎる主張のない幼児であった。

小さな手に大きすぎるくらい大きいティディベアをぎゅっと抱えて、どこかギルベルトの意志をいつも気にするように…なのにどこか人恋しさを漂わせて見あげてくる大きな丸い目。

ギルベルトが学校から帰ってくると嬉しそうに駆け寄ってくるくせに、ギルベルトが友達に遊びに誘われたのだと言うと、しっかりとしがみついた手をおずおずと放して、
「いってらっしゃい」
と、泣きそうに笑うのだ。

自分が主張したら両親を困らせる…そんな環境で育ったせいだろうか。
行って欲しくない…一緒に居て欲しい…
そんな雰囲気を全身に漂わせているのに、絶対に口に出さないし、ねだらない。

もちろん、ギルベルトは空気が読めるお子様だったので、弟のそんな健気で痛々しいまでの気遣いに気がつかない訳はない。

「あ~、俺様疲れちまったし、家でアルトとゆっくりしてたいなぁ…」
などと言いつつ友人に断りの電話をかけると、
「兄ちゃん疲れてるから、アルト、ハグしながら一緒に絵本見てくれるか?」
と、今度は逆の意味で泣きそうな弟を抱き上げて、よく一緒に本を読んでやった。

いつもいつも、自分の気持ちを後回しに、他を気遣う可愛い弟だ。
自分くらいは全力で甘やかしてやっても良いはずである。

そんな思いで守り育ててきた甲斐あって、ギルベルトに対しては素直に甘えてくるようにはなったが、自分のせいで兄がおかしな眼で見られるかも…と思えば、この優しい弟はきっと甘んじてその方法を受け入れはしないだろう。

だからこそ慎重に…
飽くまでこの関係はギルベルトのたっての希望で始まるのだと、印象付けてやらねばならないのだ。



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