温泉旅行殺人事件_救出4


中に入って和室にあがりこむと、ギルベルトはタンスの側に自分の鞄をおいて中を探りつつ、ルートに座る様に指示をする。

「フェリちゃんは旅館の側にかくまってもらうから、それまでここから出ないようにな。
部屋にいないと気付いたら氷川夫妻が様子見にくる可能性がある」

外に聞こえるほどではなく、タンスの中のフェリシアーノと部屋にいるルートにだけ聞こえるくらいの絶妙な大きさの声でギルベルトは言った。


「詳細と状況はフェリちゃんにはかくまってもらってから携帯で話す。
ルッツとお姫さんにもあとで。
とりあえず何で拉致られたのかわかるまではフェリちゃんが救出されてここにいるって知られるのはまずい。とにかくフェリちゃんがいないふりで旅館からの連絡待つぞ」

ギルベルトの言葉はもっともだ。しかし…
ギルベルトの後ろにフェリシアーノがいるのだ、無事を確認して抱きしめたい…。
ルートはその強い衝動をじっとこらえて膝の上で拳をにぎりしめる。

アーサーはそんなルートにお茶をいれた。

「少し…お茶でも飲んで一息入れよう?」

唇を噛み締めて俯くルートをいたわるように、柔らかな笑みと一緒にアーサーが手渡してくる湯のみを、ルートは黙って受け取った。

じれったい気持ちと…それ以上に安堵がわきあがってきて、ルートの目から落ちたしずくがぽつりと湯のみにおちる。


そのとき…

「こんばんは」
と声がする。

「来たな…。丁度いい、ルッツ、お前が出ろ。上手くやれ」
ギルベルトが油断のない視線を玄関の方へ送り、ルートをうながした。

「わかった」
ルートが湯のみをおいて立ち上がり、部屋を出ると玄関に降りる。


「こんばんは、どうしたんですか?」
涙をぬぐって開けたドアの向こうには雅之が立っていた。

「いや…今日の事聞いてたんで心配になってね…」
言って雅之は少し赤くなっているルートの目をみつめる。

「ギルベルト君といるの…今日はつらくないかい?
妻とも話したんだが、もしルート君が一人なのがつらいとかギルベルト君がルート君を一人にするのが心配とかなら、僕たちの部屋にこないか?」

思いがけない申し出にルートはちょっと驚いて考え込んだ。

「…しかしそこまでは…」

反射的に答えると、雅之は

「妻も…つらい経験してるからね。他人事とは思えないらしくて。
ホント僕らには全然遠慮する事はないし、良かったらぜひ」
とさらにすすめてくる。

心底心配しているようなその素振りに、真相知らなければほだされそうだなとルートは思った。
目的はフェリシアーノが部屋から消えたのでこちらに探りをいれたいのだろう。

それなら…

「ホントに申し訳ない。
兄が悪いわけじゃない…。フェリシアーノが誘拐されたのも返してもらえなくなったのも全て俺のせいで…
1人だけでも返してもらえたのは兄の活躍でだからしかたないのですが…俺はやはり今はつらいのかもしれません。お言葉に甘えていいですか?」
逆にこちらから探ってみようと、ルートはその誘いにのることにした。

「兄にことわってきます」
と、言っていったん部屋に戻ってギルベルトに事情を話す。


「だめだっ!断って来いっ!」

当然…ギルベルトが快く送り出すはずはない。

「大丈夫だ。
氷川夫妻の離れに行くのはもう知れ渡っているのだから返さないということないだろう。
そもそも俺のことはどうこうする理由もないだろう?それより少しでも情報集めた方がいい。
それに俺が行く事でフェリシアーノが移動する間、氷川夫妻の目をそらせる」

ルートが自分が行った方が良い理由を列挙すると、ギルベルトは黙り込んだ。

「心配しないでくれ。今度こそ上手くやる」
そう言って玄関に向かいかけるルートを追い越して、ギルベルトも玄関に出た。


「こんばんは」
と、雅之に声をかけると、ギルベルトはお辞儀をする。

「ああ、こんばんは。ギルベルト君も今回は大変だったね」

雅之がいうのに

「ご心配おかけしてます」
とさらに頭をさげると、ギルベルトは軽くルートの肩に手をおいた。


「弟をお願いします。
でも…本当に申し訳ないんですが、こいつも今日は一回行方不明になりかけたし、俺が心配なんで…絶対に一人にしないで帰る時もここまで送ってもらえませんか?
俺も限界で寝てるかも知れないんですけど、必ず起きて引き取りたいので、できればこちらに戻る前に電話頂けるとありがたいです」

ギルベルトの言葉にルートは

「兄さん、子供じゃないのだから…」
と苦笑するが、雅之は笑顔で

「もっともな心配だね。大丈夫、僕が責任持って送ってくるから、君もゆっくり休んでね」
とうなづく。

これで…ルートが自分達と分かれてからいなくなったという言い訳はできないし、ルートに手出しはできないだろう。

「じゃあそういうことで。お預かりします」
と言って雅之はルートと共に自分の離れへとむかった。




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