温泉旅行殺人事件_救出3

母屋にはすでに全員が集まっていて、旅館の人間が謝罪している。

ギルベルトはそこにタオルで髪を拭きながら走って来て
「ルッツ、なんだったんだ?」
とちょっと離れた所から声をかけた。

「ああ、誤報らしい。
兄さんも無事で良かった」

振り向いて一瞬ギルベルトに注目、そして言うルート。
それにギルベルトも合わせて言う。

「あ~、お姫さん先に脱出させて俺様だけならさっと泡落として身体拭いててもギリギリでも脱出できるからな。
お前がお姫さんと先に行ってくれて助かった。
でなきゃ泡だらけだろうが濡れたままで風邪ひこうが即タオルだけ巻いて脱出するとこだった。
ま、着替えは悠長にしてる暇なくて、大雑把に羽織って帯だけでOKな浴衣になったけどな」

そう、暗に避難が遅れたのは風呂に入っていたからだと言う事を強調すると、

「災難だったね、ギルベルト君」
「あら、でも浴衣似合うわよっ。良い機会だからそのまま着てたらいいじゃない」
と笑顔の氷川夫妻。

この夫妻があの誘拐犯で…おそらく殺人犯なのか…。
好意を持っていただけに複雑な気分になるルートとギルベルト。

しかしもちろんそれを表面にはだすことなく、
「いえ、動きにくいし、ああいう事があったからお姫さんの護衛をきっちり出来ないと困るし、即着替えます。パジャマも持参してるし」
と苦笑いでそれに返す。

それからギルベルトはアーサーをしっかり護衛しているルートにかけよって、

「護衛サンキュー。かわるから」
と、アーサーをぎゅ~っと抱き寄せた。

その上で
「あ~、でも俺様慌てて濡れた足でお姫さんの寝巻ようの浴衣踏んで濡らしちまったから、もう一枚浴衣を用意してもらえるように頼んでくれないか?」
と、言いながら、ルートに他にわからないようにこっそりメモを渡す。

そして
「まあ…何もなくて良かった。お姫さん、離れてごめんな?
これからは風呂のタイミングも細心の注意を払うから…」
と、ギルベルトが愛おしげに腕の中のアーサーのつむじに口づけを落としたり頬ずりしたりし始めたのに、周りの視線が集まっている隙に、ルートはメモに視線を落として、謝罪をしていた綺麗に着物を着こなした女性にかけよっていった。

『フェリちゃんがみつかったんだが…いったん誰にもわからないように旅館の方で保護して隠しておいて欲しい』

と、そのメモをこそりとそのまま手渡しながら、表面ではギルベルトの言葉通りアーサー用に浴衣を一枚手配して欲しいと告げると、フェリシアーノの親の友人と言うその女性はやはり他にはわからぬように受け取ったメモにちらりと目を落としながら、

「かしこまりました。
ではすぐに準備いたします」
と、心得たように頷いた。


そしてまた兄達の方に戻ったルートは
「手配してくれるそうだ」
と、ギルベルトに告げる。

他からすると“浴衣の手配”と思わせてのその言葉の真の意味を知るのはルートとギルベルトのみ。
こうして裏で交渉が成立したことを確認できたので、あとはこちらの準備も必要だ。


「とりあえず…まだ風呂途中できたから、ルッツ、お姫さんの護衛頼む」
と、戻りつつ言うギルベルトに、ルートは少し苦笑。

「俺は1人でも…。気を使わないで大丈夫だ…」
と、まだショック冷めやらない演出をしてみせる。

ギルベルトはそれに肩をすくめて

「別に…ホントにまだ体洗ってないし…」
と、同じく演技で少し視線をそらせてみせた。

「わかった。兄さんが風呂からあがるまでは護衛として滞在しよう」
と、ルートは最終的に了承の意志を示してみせ、3人揃ってギルベルト達の離れに戻る。



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