温泉旅行殺人事件_散歩と浴衣と露天風呂3

そうして宿に着くと、

「おなか減った~。今何時?」
というフェリシアーノの言葉にルートがチラリと腕時計に目をやって答えた。

181332秒」

その答えにフェリシアーノは呆れたように

「あのね…時報じゃないんやから…秒まで要らないって。
ま、夕飯6時半に頼んどいたからあと17分かぁ」
と、お腹をさすって

「あ…」
と叫んだ。

「何だ?」
とルート。

「露天の鍵返し忘れた~。ちょっと返してくるねっ」
と、止める間もなく走り出して行く。


「では夕飯は兄さんの部屋だし、もう直接行っておくか」

食事はギルベルト達の部屋に運んでもらって一緒に食べるように手配してるため、ルートもそのままギルベルト達の離れに向かう。


「遅いな…フェリ。母屋まで行って帰ってくるだけならいい加減来てもいい頃だが…」
1820分を過ぎて仲居さんが食事の支度を始めると、ルートはチラリと時計を見て立ち上がった。

そして
「ちょっと見てくる」
と、ルートが部屋を出かけた時

「遅れてごめ~ん!」
と、フェリシアーノが入って来た。

「迷いでもしてたのか?」
フェリシアーノならあり得る…とルートは言うが、フェリシアーノはそれは

「ううん、実はね…」
と否定をして、しかし部屋に入って

「うっわ~綺麗♪」
と料理をみて歓声をあげた。

もう…こうやって関心がコロコロ移るのは、周りの彼の特徴だ。
ルートはそれ以上聞くのはあきらめて、黙って自分の席につく。



なごやかな夕食がすむと、気持ちは花火へ。

「早めに行っていい場所探そうぜ」
というギルベルトが立ち上がった時、アーサーが突然

「あ…」
と声をあげた。

「今度はお姫さんか。どうした?」
と、苦笑するギルベルト。

するとアーサーは太めの眉をへにょんと八の字型にして、
「風呂場に…ペンダント忘れて来た…」
と俯く。

もちろんそれがアーサー自身が4人いつまでも一緒にいられるようにと心をこめて刺繍した4人お揃いで持っているよつばのペンダントである事がわからないギルベルトではないし、わかったらその回収を後回しにするという選択肢はない。
「今…7:20か。急いでフロント行って車出してもらえば7:30の人が入る前に取って来れるな。急ごう」
と言って、2人でフロントへ急いだ。

そして車を出してもらって露天風呂へ。



幸い次の予約の人間はまだ来てなかったのでアーサーは急いでを取りにそれぞれ浴槽と洗面所へ戻った。

そして
「あったっ」
と、すぐ中から出てくる。

「んじゃ、戻るか。」

7:25…花火は8:00くらいかららしいからまあ余裕か…と車に戻りかけるギルベルトの服の裾をアーサーがクン!とつかんだ。

「なんだ?」
大きな丸い目で自分を見るアーサーにギルベルトが少し笑みを浮かべると、アーサーは

「ん~、歩いて戻ったら…遅れるか?」
とちょっと首を傾げた。

長い睫毛に縁取られたグリーンの澄んだ瞳がジ~っと問いかける。

「平気だと思う。そうするか」

可愛い可愛い恋人様にそんな目で見られてギルベルトが断れるはずはない。
そして送迎の車には帰ってもらって2人で歩き始める。

さっき露天に来た時の往復とはまた別の道。


「これで…全部だな♪」
ご機嫌で笑うアーサー。

暗闇を照らす明りが夜空に飛ぶ蝶をふんわりと映し出した。
結局…全ルートを通ってみたかったんだな、と納得するギル。

でもそれなら…とふと思う。

「ま、あわてて全部まわる必要もないけどな。三泊四日するんだし」

そのギルベルトの言葉にアーサーは微笑んだ。

「これが最後の機会…な気がして」
と、意味ありげな言葉。

それにギルベルトは一瞬不安を覚えるが、アーサーは特に悲観的な様子もなく、

「行こう!少し急がないと花火が始まっちまう!!」
と、むしろ楽しげに駆けだして行ってしまったので、それについて言及し損ねた。

まあ、単に露天風呂は予約制なのもあって取りたい時間に再度予約が取れるとも限らないし、予約が取れてもう一度来るとしても、天気が悪ければ徒歩ではなく今の行きのように車で送ってもらう事もあるだろうから、そのくらいの事なのだろう。

そう自らを納得させて、ギルベルトもそのあとを追った。



こうしてしばらく歩いていると、

「あ…ここから露天の行きに通った道にでられそうだな♪」

変なところで目がいいアーサーがそれまでつないでいたギルベルトの手を放してテケテケと歩き出して行く。

「危ねえからっ!手は放さないでくれっ!」

足場が悪いので一歩間違えば落ちて泥だらけ、もしくは草だらけだ。
ギルベルトはあわててその腕を掴む。

しかし崖の前で立ち止まるアーサー。

ギルベルトは不思議に思って
「どこが?」
と同じく崖を見上げる。

「えっとな…この木を登って上に行くとたぶんそうかと…。ひな菊と…小川の匂いがするから」

ここからそんなもんわかるのか…犬並みの嗅覚だな…と秘かに驚く。

ギルベルトが驚いているうちに、アーサーはスルスルと女物の浴衣のまま木を登っていく。

うああぁぁと、何故か視線をそらせるところが、青少年だ。

一方登りきったアーサーは木の上から見覚えのある道を確認して、満足して降りてくる。

「お姫さん…自分の格好考えてくれな?」

と言われてアーサーは初めて思い出したらしい。

「わ、わりい」

と慌てて着崩れた浴衣をなおした。


2人はそのまままた下の道を歩き始める。

「ここ…すごいな…」

途中幅4mほどの亀裂があり、木の吊り橋がかかっている。

「うあぁ…すっごい揺るな~」
さきほどスルスルと木に登っていたので怖いもの知らずだと思っていたアーサーでもさすがに怖いのかギルベルトにしっかりしがみつく。

「ま、普通に渡ってれば落ちねえから平気、ほら」
ギルベルトは笑ってしっかりその手を握ったまま先に立って歩き出した。

そのまま歩き続ける二人。

空気はさすがに冬だけあって冷たいが、握った手は温かい。
こうしてずっと歩いていたいな、と、少し思うギルベルトだったが、やがて遠くに母屋が見えてくる。
どうやら最初のルートよりも若干近いようだ。

名残惜しい気分でそれでも歩を進めると、丁度母屋から出てくるルート達が目に入った。




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