一族4
そして最奥。
まっすぐ進んだ先の大きな扉が開かれると、そこは大広間になっていて、奥には玉座のようなものが二つ並んでいる。
その一つには桜のようにキチンと着物を着こなした同年代くらいの娘が座っていた。
ただ違うのは、彼女はギルベルトと同様、欧州系の顔立ちをしている。
「おかえりなさいませ。お館様」
にっこりと微笑む娘をギルベルトは不機嫌ににらみつける。
「一位に…河骨の…紫苑か。なんの茶番だ?」
「覚えていらして下さったのですね。一位は嬉しゅうございます」
不機嫌なギルベルトとは対照的に娘、一位は嬉しそうに笑う。
そしてギルベルトに手を伸ばしかけるが、ギルベルトはそれをピシっと払いのけると言った。
「何の茶番かと聞いているっ!」
とさらに不機嫌に言うギルベルトに、一位は少し困った様な笑みを浮かべた。
「ひさかたぶりに帰っていらしたのに随分とご立腹のご様子でございますね」
「里を出てレッドムーンに身を投じたと思えばこんな所にわけわかんねえ城建てて何いってやがる!」
「その子誰なの?」
イライラ言うギルベルトの後ろで、エリザがギルベルトの肩をポンポンと叩き耳打ちする。
「元婚約者の一位」
と、短く説明するギルベルトの声を聞きとがめて、一位はエリザにもにっこりと微笑みかけた。
「元ではありませんよ。お館様がこうしてお戻り下さったのですから一位はいつでもお館様に嫁ぐ準備はできてます。
そなた、お館様のお眼鏡に敵う豪の者とみました。
そなたも良ければいらっしゃい。侍女としておいてあげましょう」
一位の言葉にギルベルトは大きく息を吐き出した。
「あのな~。マシューはどうした?
俺とルッツが出て行ってからあいつが跡取りになったはずだろ?
なんで今更俺をお館様扱いしてんだよ、お前ら」
「わたくしは認めておりませんっ!
ブルーアースなる不埒な輩が勝手にお館様を連れて行ってしまっただけでございます。
わたくしを始めとして一族の者もみなこうしてギルベルト様だけをお館様としてお待ち申し上げておりました」
「マシューは?」
さらに繰り返すギルベルトに、一位は言う。
「マシュー殿は戦いは好まぬとお館様奪還のためにレッドムーンとやらについたわたくし達とは袂を分かって里に残っておいでです」
「そっか…」
と、その言葉に厳しかったギルベルトの顔が一瞬やわらいだ。
アーサーのために全てを薙ぎ払う覚悟はしているものの、出来れば自分の記憶の中ではまだあどけなくも愛らしかった小さな弟を刃にかける事は避けたいと思うのは仕方のないことだろう。
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