温泉旅行殺人事件_散歩と浴衣と露天風呂1

高級旅館紫葉荘はフロントとロビー、ラウンジ、厨房その他がある母屋と7棟の離れ、そして広大な庭園で成り立っている。

広大な庭園は散歩道にもなっていて、母屋から20分ほど歩いた先には海の見える鍵付き露天なんてものもあったりする。

もちろん、そこまでは頼めば送迎車を出してもらえるが、散歩がてら歩く人がほとんどだ。


「露天はいろうよっ!」
ロビーについてまずフェリシアーノが張り切って言う。

「あ~予約制なのな。予約しとくか…」
と確認したギルベルトが5:005:40の予約を入れた。


それから4人は他の宿泊客同様22に分かれて母屋から徒歩23分の離れへ落ち着く。

玄関に入るとふんわりと漂う香の良い匂い。

靴を脱いで玄関を抜け、テーブルのある手前の部屋に入ると用意してあるお茶と茶菓子。
それぞれ荷物を整理して落ち着いてそれを頂いているもう3時半だ。

(露天…5:00だから母屋出るのが4時半くらいか。戻って6時過ぎ。
夕飯が6時半からで8時から花火見えるって旅館の人言ってたからそれ見に行く感じか…)

茶を飲みながら今後の予定をざ~っと考えるギルベルト。

しかしそんな風に考え込む彼の耳に
「浴衣が…一枚しかない」
というアーサーの困ったような声が飛び込んできた。

「あ?じゃあ別に俺様、浴衣着ないで良いぜ。
お姫さん使いな」

と、振り向いたギルベルトの目に映る華やかな蝶の模様の浴衣を手にした恋人様の姿。
そしてその横にあるのは縦縞しじら柄の紺の浴衣。

「…2枚あるんじゃね?」
と聞くと、アーサーはため息。

俯き加減になると、くるんと綺麗にカールした金色の睫毛の長さが際立って、さきほどのOL達の会話ではないが、本当に人形のようだと思う。

そんな恋人様の口から漏れるのは
「こっち…女性ものだと思うんだけど?」
と言う言葉。

ギルベルトよりも一回りは余裕で小さい白い手にかかる黒地に色とりどりの花や蝶が舞う布地はとても美しい。

「お姫さんが着たらすっげえ可愛いと思うけど?
似合うから良いんじゃね?」

と、その手から浴衣を取りあげて、その細い肩にそれをかけるように羽織わせると、ギルベルトは、ほら、というように、姿見に視線を向けさせた。

本当に人形みてえ。
可愛い。めっちゃ可愛い

と、暗に着て欲しい旨を告げると、アーサーは困ったようにギルベルトを見あげた。

「だって…」
と否定を口にしかけるのを、

「たぶん、フェリちゃんも着てくると思うし、そしたら外でもお姫さんも気兼ねなくくっついていられるだろ?」
と、強引に押し切ると、実は可愛いものは嫌いではない恋人様は一考。

そして最終的に
「…フェリが着るなら……」
と、条件付きで了承してくれた。




見てみて~!可愛い?!

そして4時半。
露天風呂を目指すべく合流すると、期待を裏切る事なく目の前で花火の柄の浴衣を着て嬉しそうにクルクル回るフェリシアーノ。

「こら、転ぶだろうっ!!」
と、ルートが言った直後に足をふらつかせるが、その身体は倒れることなく、駆け寄ったルートのムキムキの腕に支えられる。

「ヴェ、草履だから歩きにくいんだよ~」
と言いつつも、その草履にも嬉しそうにはしゃぐフェリシアーノ。

そして、同じく浴衣を着るアーサーに駆け寄って
「アーサーの浴衣も可愛いねぇ。蝶ちょだ~」
と、手を取ってぴょんぴょんと飛び跳ねた。

そんなフェリシアーノのあっけらかんとした様子に、女物の浴衣を着て外に出ることにやや躊躇していたアーサーも吹っ切れたらしい。
2人で繋いだ手を楽しそうに降りながら歩きはじめる。

「ふむ…部屋の名前にちなんだ柄の浴衣なのだな」
と、そんな2人から一歩後ろをギルベルトと歩きながら、ルートがなるほど、と言った風に顎に手をやって頷いた。



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