青い大地の果てにあるものGA_13_18

一族2



「…つまり…アーサー君を盗撮しに風呂場に行ったまま帰って来ない。
アーサー君が消えたあとの風呂場にもいない…そういうこと?」

エリザが事情を聞いている横で、ギルベルトは遠子が一緒に誘拐されてくれてよかったと言う自分の考えに若干の罪悪感に駆られながらも、ホッとしている。

脱衣場に血の跡がないと言う事は十中八九遠子も一緒だし、1人ならとにかく2人の人間をフランソワーズに気づかれる事なく拉致するとなると、手荒な事をする余裕はなかっただろう。

そしてなにより…アーサーに何があったか、正確な事を語れる人間がいる。
これは重要だ。

もし…万が一アーサーにフェリシアーノのような事があったとしたら、自分はそれに最善の対応をするためにどんなに辛くとも正確な情報を知らなければならないのだ。

何かあったら…そう考えるのは怖い。
それでも…守るのだと思えば、たとえその身に何が起こっていようと、目をそむけてはならないのだ。


「ギル、前言撤回。
救出した遠子ちゃんのフォローと護衛も必要だから、フランソワーズの護衛から1人だけフリーダム削って一緒に連れていきましょう!
最悪彼女は抱えて歩かないとかもしれないし」

エリザも最終的に遠子はアーサーと一緒に拉致されていると判断したのだろう。
黙って考え込んでいるギルベルトにそう申告して来た。
ギルベルトもそれには異存はない。

アーサーは歩けない状態になっていたなら、他に任せるつもりはないので自分が抱えて運ぶとして、道を切り開いて全体を守るのはエリザ。
そうすると、遠子を運ぶ人間は必要だ。

と、改めて状況を口にすると、また、あのぉ…と、おそるおそる翼が手をあげた。

「なんだ?」
「私じゃダメですかねぇ?」
「却下。遠子を抱えて運べなきゃ意味がねえ」
「いえ…力仕事には自信があります。つか、ギルベルトさん、私の事覚えてません?
以前随分色々お手伝いさせて頂いたんですが…ほら、アーサーさんに怒られたじゃないですか」

言われてギルベルトはマジマジと翼を改めて見る。

「今は本部じゃないから皆さんに合わせた格好してメイクも落としてるけど……」

見る…見る…見る………思い出したっ!!

「あー!!!食堂の兄ちゃんかよっ!!!
いつもの奇天烈な格好じゃねえからわかんなかったわ!!」

「…奇天烈……いやアレは推しのコスプレ……いや、そんな事はどうでもいいんですが、思い出して頂けたなら、腕力ある事はご存じですよね?」

…女性であるのに“兄ちゃん”と言われたところに突っ込みはないらしい。
それより推しの格好を奇天烈と言われた方が重要なあたりが、ややオタク気質…いや、立派なオタクだ。

実はブルーアースの食堂勤務は意外に力仕事だ。
なにしろ本部中の人間の食をまかなうのだから、食材の量も半端ない。
20キロのキャベツの大箱とかをナチュラルに片手で運んでいたりする。

小柄な女性達がそんな荷物を手にちょこまかちょこまか動き回っている図は、どことなく可愛らしいと思いつつ、ギルベルトもたまに視線を向けていたのだが、そんな中でアーサーと同じくらいだろうか。
他の女性陣よりは背が高く、男の中では若干背が低い男が混じっているのに気付いた。

SF的なのか古典的なのか…とにかく派手な飾りのついたボディスーツを身にまとっているその姿は、以前エリザがキャーキャー言ってた何かの漫画の中に出てくるキャラクタに似ている気もする。
それほどマジマジとみていたわけではないので気がするだけかもしれないが…

ともあれ、そのキャラクタは男だったので、(なんだ、男がいるんじゃねえか)と、

『おい、お前、俺も手伝うからこの手の力仕事は俺らでやろうぜ』
と、食堂で気づくたび誘って一緒に女性陣の分の力仕事をやっていた……つもりだったら、ある日、アーサーに怒られた。


「ポチ!お前なに1人のレディにだけ力仕事強要してんだっ!!!」
とお冠な恋人様に目をぱちくり。

「いや?だから俺様、女性陣の分を野郎と一緒に手伝ってたんだけど??」
と首をかしげると、このばかぁ~~!!!と、後頭部にちょっぷをくらった。

「おまえ、レディを野郎とか言ってんじゃねえっ!!」
「は?」
「お前の隣でお前にこきつかわれてんの、レディだろうがっ!!」
「はあああ???!!!!」

びっくり眼で振り返るギルベルト。
てへへっと頭を掻く翼。

「おまえ…言えよぉぉ~~~!!!!」
と脱力するギルベルトを
「どうせお前が言わせなかったんだろうがっ!!」
と、もう一度どつきながら、翼の手を取って

「うちの馬鹿犬がごめんな?レディ」
と、手のひらぎりぎりに唇を寄せてリップ音。

硬直……
赤面……

絶叫!!!

ひええええーーーー!!!!!

どうやら男扱いも力仕事も慣れているが、逆にレディ扱いは慣れていなかった模様…

……という一連がギルベルトの脳裏をかけめぐる。


そして一緒に20キロのキャベツの箱を2段重ねで運んだ日々が浮かんでくる。
うん、タマはああは言ってたけど、こいつなら大丈夫だなっ!

と、思い切り納得すると、

「おう、お前ならチビな遠子の1人くらい余裕で抱えられるな」
と、同行を了承した。



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