一族1
「それ、どういうことだよっ?!!!」
即最低限の状況を理解すると、ギルベルトは自分も真っ青になって立ち上がった。
「部屋に居ないのよっ!!
戻ったらフランソワーズだけ倒れてて…
それでとりあえず同行した翼ちゃんに彼女任せてあたしはこっち報告に来たんだけど…」
と思わず叫ぶ。
エリザは悪くない。
呼びだしたのは自分だ。
そう頭でわかっていても、言わずには居られない。
エリザもそれがわかっていて、そのギルの暴言を流してくれている。
そして飽くまで冷静に
「とりあえず…フランソワーズを起こして事情を聴きましょ」
と、踵を返すエリザにギルベルトも続いた。
エリザとフランソワーズの部屋には布団に寝かされたフランソワーズとその端に正座をしている食事担当の随行員の翼。
「フランソワーズ!!起きろっ!!!」
と、ずかずかと部屋に入るや否や、止める間もなくギルベルトがその半身を起させて揺さぶると、幸いただ気を失っていただけなのだろう。
フランソワーズはすぐに目を覚ました。
そして驚いたようにギルベルトを見あげる。
そして室内を見回している。
そんなフランソワーズを待つことなく、ギルベルトは今一番知りたい事を訊ねた。
「タマはどこだっ?!!」
「…タマ……アーサー君…ね……」
まだ頭がしっかり覚めていないかのように小さく頭を横に振ると、フランソワーズは急にハッとしたように逆にギルベルトの腕を掴んだ。
「ギルベルト君っ!!キクって子知ってる?!!」
「タマの居場所が先だっ!!!」
もうそれ以外聞く気はない。
それを聞くまで他の話をする気はないと言うギルベルトの態度に、フランソワーズの方が気持ちを切り替えたようだ。
「浴場で服に着替えてる最中にエリザがギルベルト君に呼ばれて行って、あたしは普通に着替えてたんだけど、アーサー君が突然、ちょっと先に戻るって言うから、てっきりエリザのあとを追ってギルベルト君の所へ行ったんだと思ってたんだけど……」
と、その言葉にますます顔色を失くすギルベルト。
祈るような気持ちでエリザに視線を向けるが、エリザもわからないというように首を横に振ると、両手で顔を覆って言葉を失くした。
「…とりあえず…随行のフリーダムに言って捜索させねえと……」
と、指の間から無理矢理絞り出すような声でそう言うギルベルトに、フランソワーズはおそるおそる口を挟んだ。
「あの…ね…伝言。一族はギルベルト君の敵に付くって…」
「は?!」
一族…という話題をギルベルトに出すのは、前回の事もあって怖い。
それでなくてもアーサーの事ですでにギルベルトは殺気立っている。
しかしおそらくこれは最重要事項な気がする。
そう思ってフランソワーズは仕方なく言葉を進める。
「あたしが部屋に戻った時に極東の子っぽい男の子がいて、キクって名乗ってたんだけど、その子がね、危害は加えないから話を聞けって。
で、言われた言葉をそのまま言うわね。
『時間がないので手短に言います。
現在檜を始めとして鉄線、河骨の一族3家はレッドムーンについています。
今回の日本の基地で迎えうつのは一族です。
心してかかられよ。と、お館様にお伝え願いたい』ってことよ」
「ちょ、待てっ!!キクって鉄線の菊のことかっ?!!」
「あ~、そんな風に名乗ってたわ。やっぱり実家の関係?」
「…桜の実兄だ」
「…だから伝えに来てくれたのね……。
わざわざ教えに来てくれるから、あなたは違うの?って聞いたら、自分はお館様に恩のある身だから忠告に来ただけで、これからは一族に倣って敵になるって言ってたけど…」
ああ、これトラウマに輪をかけるな…と思いつつも言わないわけにも行かずそう言うと、ギルベルトは何かに耐えるように一瞬固く目を瞑る。
そして次に目を開いた時には立ち上がっていた。
「基地の位置はわかってんな?
代わりのフリーダムを待ってたらいつになるかわかんねえし、俺様は今から乗り込む。
敵が一族なら……」
と、そこでやや目を伏せるギルベルトに、
「一族なら?」
と、聞き返すエリザ。
それに苦い笑みを浮かべながら
「10年ちょっと経ってるけどな…一族なら弱点も攻撃パターンもある程度わかるから…。
いざとなれば羅刹で叩きつぶせる。
…情報収集はちょっと諦めてもらうことになるけどな…」
と、言う。
平気ではない…と、その表情は語っているものの、その切れ長の紅い目にはそれをやりとおす決意が浮かんでいた。
いつもいつも、決断なんて楽しいものでも楽なものでもなく、辛く厳しいものだった。
「たぶんアーサー君もそこってことね?」
と、エリザの問いに
「十中八九な」
と、ギルベルトが答える。
「お~っけい!あたしも付き合うわ。
フランソワーズはフリーダムと留守番。
フリーダムには絶対死守を指示しておきましょう。
敵にイヴィルが居ない限り、それでイケると思う。
アーサー君がいないのを確認できた場所は容赦なく全力でぶっ放していきましょう!!」
とぶんぶん腕を回すエリザ。
普段なら例え敵だろうと多少なりともその餌食になるのは気の毒に思うのだが、今回はその剛腕っぷりが頼もしい。
「じゃ、そういうことで、残りの人員全員集合させるわねっ!」
と部屋を出るべく踵を返しかけるエリザに、
「…あのぉ……」
と、声がかかる。
それまでずっと黙っていた翼がおそるおそる手をあげた。
「はいっ!黒木翼君っ!」
と、教師よろしくエリザが指を指す。
「遠子さんも消えてます」
「はあ??」
「たぶん…アーサーさんを盗撮しに行って一緒に拉致られたものと思います」
「はあああ?!!!!!」
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