青い大地の果てにあるものGA_13_16

祝初温泉旅館5


「ちょ…まじか…それは……
…で?ルッツはまだそっちついてねえよな?
フェリちゃんの様子は?」

最初はただ、すでに極東まで来てしまっている以上、何もしないで戻るよりはここの遠征目的だけは遂げて、次の遠征からはもう一度メンバーの練り直しということで、今回はフェリシアーノと梅が出動する際に、暴走しかけたら止めるように自制心を持つルートと桜をそれぞれつけろと、その指示を出すつもりでギルベルトはアントーニョに連絡を取った。

そして…後悔する。

エリザの実家論ではないが、今自分にはどうする事もできない事ならば、聞かない方が良い。
雑念が増えるだけだ。

そう思うのだが、聞いてしまったらもう、脳内から追いだす事も出来ない。


「…とりあえず…情報としてだけはもっておく。
…イヴィルについてはこっちも極力情報を集めるよう努力はするけどな…
あんま期待しないでくれ。じゃ、」

通話を切って今度はエリザの携帯に電話をかけて

「お前だけ来い。他はおいて」
と、呼び出しをかけた。


本当に…頭を抱えたくなることだらけだ。
自分ではどこまで言えば良いのかも判断できない。
ただわかるのは、自分とエリザは常に情報を共有する存在だと言う事だけだ。

互いに色々が今更で、互いに同じ責任と重圧を背負わされるベテラン同士だ。
エリザにだけは全て話してどう動くかを相談しなければ……

もちろんアーサーは現相棒であり、いつも一緒なわけだが、彼の場合、それでもギルベルトにとっては守るべき恋人様なわけで、なんでもかんでも一緒に負担をさせたいわけじゃない。

その点エリザは女なのだが、それを考慮にいれる必要性を感じた事もなければ、互いに背中を預ける事はあっても、自分の方が特別に相手を守ろうと思った事は一度もない。

こうしてすぐやってきたエリザを部屋に迎え入れると、ギルベルトは端的に言った。

「正直どこまで誰にまで話して良いのかわからねえ。
意見を聞かせろ」

普通なら多少なりとも動揺したりするものだと思うが、エリザは全く迷うことなく
「状況を話しなさいよ」
と、即答する。
本当に肝の据わった女だ。

非常にデリケートで言いにくい話で、ギルベルトも他の相手なら多少なりとも躊躇はするのだが、エリザはある意味、ジャスティスにおける自分の分身のようなものだと思っている。
だから聞いた事をそのまま話す。

「結論から言うと、出動があってジュエルが体内に吸収された日の夜、1人で休んでたフェリちゃんが例のイヴィルに呼び出されたらしい。
で、独断で外出して……襲われたんだと」

言ってギルベルトはくしゃりと前髪を掴む。

「それは…怪我をするような暴力?それとも性的な意味?」

正直すげえ…と、ギルベルトは思う。

まあこの言い方だとギルベルトだってそこがまず気になるわけだが、自分ならそんな直接的な聞き方はできないだろう。
ただ、説明をしなくてはならない方としては、言いにくい部分をそうやって答えやすい形で聞いてくれるのはありがたい。

「後者」
とだけ答えると、ギルベルトは前髪を掴んでいた手を額にあてて、天井を仰いだ。

「一応な、あっちもそれでゴタゴタしてるからあんま色々聞けねえけど…その他の情報としては、それ知ってるのは本部長3人と、イヴィルの反応で駆逐に駆り出された梅と桜。
イヴィルは駆逐済み。
…父親が亡くなって祖父を頼って本部に連れて来られる前ですっげえ仲良かった幼馴染だったらしい。
なんでそういう事になったのかはわかんねえけど……
まあ今になっては幸運だったっつ~か…ちょうどジュエルが体内に吸収された件でどちらにしても調べねえとだから、それを名目にしてフェリちゃんは隔離状態でフランシスと桜が看ている」

「それは…あたし達以外には他言無用案件ね」
と、そこまで説明し終わった時にエリザがきっぱり言った。

その根拠は?と視線を送ると、言葉にしなくても当然のように伝わったらしい。
エリザは言う。

「向こうでも機密扱いなんだとしたら、随行している職員には秘密なのはもちろんだけどね。
敵を殴り倒せなくなった時はイコール死んでる時っていうあたし達攻撃特化型のジャスティスと違って、アーサー君やフランソワーズは、イヴィルにそういう性衝動みたいなものがあるってことを知ったら、不安になるだけでしょうし。
だから知らせない。
その代わりあんたとあたしでそれぞれを死ぬ気で守って、自分が死ぬ時はその前に相手を速やかに確実に死なせてあげる、それが正解よ」

ああ…本当に…本当に……

──お前って…本当に腹がたつくらい肝の据わった良い女だな。


自分だけで背負うのかとか、もし隠している事がバレたらとか、色々が渦巻いて自分で出せなかった…けれど自分もそれが最良だと思っている結論をずばっと言いきってくれる戦友に思わず漏れる声。

それに対してエリザは当たり前のように
「あら、今頃気づいたの?」
と言って、にやりと笑った。



そうして全ての方針が決まったところであとは考えなければならないのはルートに対する対応だけだ。
恋人が自分の不在中に襲われた…それは自身も大切な恋人がいるギルベルトだからこそ、そのショックはわかる。
自分だったらまず死にたくなると思う。
それでも最終的に、そんな恋人を遺しては死ねないわけなのだから、自分の中だけで苦しむことになるのだと思うが……

それなら自分がその八つ当たりのはけ口になってやりたい。
感情をぶつける先があるだけでも少しは楽になるだろう。
問題は自分と同じく生まれ落ちた瞬間から“お館様”として育てられて自制心が強すぎるルートがそんなに簡単に自分にぶつけてくれないであろうこと。
どうしてやるのがいいんだろうか……

そのあたりをしばらく考えたい。
そう思って、相談ついでにエリザに依頼する。

「ちょっと俺様しばらくルッツのフォローについて考えてえから、お前らんとこにそのまましばらくタマを置いておいてもらっていいか?」

と、その言葉にエリザは頷いて部屋に戻って行った。

…が、すぐ真っ青になって戻って来て、ノックもせずにドアを開け、恐ろしい発言をする。

ギルっ!!アーサー君そっちに戻ってないっ?!!!




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