祝初温泉旅館4
こうして無事きわどい方向から話がそれてホッとするギルベルト。
フランソワーズにとっては下ネタも普通の話題も同じ感覚らしい。
アーサーの言葉を受けて普通に
「良いわねぇ!桜ちゃんや梅ちゃんともこうやって語りあいたいわ。
どうせならロヴィーノ君やトーニョ、みんなで来られると楽しいのにね」
と、のってくる。
「それだけ集まるなら、むしろ男性陣を一つの浴槽に集めてそれを遠目に眺めつつ、女性陣だけでガールズトークしたいわね」
と、目を輝かせた。
ガールズトーク?お前達のは発酵した女の会話だろうから、ちょっと違わね?
と、突っ込みを入れたいのをギルベルトはジッと我慢する。
ここでフライパンは食らいたくない。
「まあ…今までなら例え基地内に温泉があったとしても、全員が一斉に落ちついてお風呂ってわけにはいかなかったけど、今回から敵の基地の方を叩きつぶす形になったから、もしね、いつか本拠地をみつけて叩きつぶせれば、そんな事が可能になる日がくるかもしれないわね」
と、そこは珍しく支部長らしいフランソワーズの発言に、ギルベルトはそんな未来に思いを馳せた。
魔道生物はフリーダムでも対応できるものの、イヴィルは倒せるのが自分達ジャスティスしかいない。
だから今は一応休暇と言うものはあるにしろ、万が一に備えて基地内には居なければならないので、仕事でもない限り、基地を離れてこんな風に旅行もどきの事はできないが、もしレッドムーンが壊滅してイヴィルがいなくなれば、外泊だって自由だ。
フリーダムやブレインの部員達のように、休みの日には2人で雰囲気の良いホテルに泊まって美味しいものを食べて、可愛らしい顔で笑う恋人を堪能できるかもしれない。
そんな日々を思うと自然に笑みが浮かぶが、それまでは全てに置いて淡々と…あるいは楽しげに応対していた恋人は、隣で浮かぬ顔だ。
「タマ、どうした?」
と問えば、普段は勝気な印象を与えるやや太すぎる眉がへにゃりと八の字を描く。
「俺は…生まれてこの方ジャスティスとしてしか生きた事がないから…。
一般人の生活とかわかんねえし、ブルーアース離れてどうやって生きてくんだろうなと思って」
と、小さく息を吐きだしたアーサーに、フランソワーズが小さく笑って言った。
「あ~別にレッドムーンがなくなったらブルーアースがなくなるとかはないわよ?
たぶん今ほどヘビーじゃない治安維持、文字通り世界の警察の役割を担うことになるんじゃないかしら。
もちろん、その場合は、一般人でも対応は出来るけど、やっぱり特殊能力を持つジャスティスは優秀な戦力だしね。
普通にそのままフリーダムの上の方に組み込まれる事になるんじゃないかしら」
「…そう…なのか」
と、少しホッとした様子のアーサー。
それに
「ええ、ほぼ間違いないと思うわ。
でもそもそもが、万が一ブルーアースがなくなったとしても、ギルは生活力ありそうだし、アーサー君の遠距離型ジャスティスの人並み外れた視覚聴覚は特殊技能だから、普通に仕事あるわよ」
と、請け負う。
「そういう日が来たら…一度実家見て来たいわ」
と、そんな2人の会話を聞いて、エリザがしみじみと言った。
彼女にしては少し遠くを見るような、懐かしむような目で…。
「エリザは実家まだ健在なのか?」
と、それを受けて聞くアーサーに
「少なくともあたしが本部来た時にはね」
と頷いて、それから苦笑。
「今はわからないわ。
調べてって言えば調べてもらえるのかもしれないけど、何かあったって聞かされても戻れるわけじゃなし。
何も出来ないから知ったら辛くなっちゃうから…だから聞かない。
まあ…平和になった時のお楽しみってやつね」
お楽しみ…という言葉にはそぐわない、相変わらずの笑顔だが、エリザには珍しく少し無理をしているような、そんな顔。
確かにアーサーのように温かい家庭というものを持たずに育つのは寂しい事ではあるが、現状を考えると温かい家庭に育ったら育ったで色々辛い事もあるようだ。
アーサーがそんな事を考えていると、エリザがふと表情を曇らせた。
「それでね…ちょっと気になったんだけど…ギルが言ってた本部急襲したイヴィルとフェリちゃんの話。
ニューイヤーズパーティの時のイヴィルにされていたフリーダムの部員みたいに、そのイヴィルってもしかして本部来る前の仲良しさんとかがイヴィルにされてたとかじゃないかしら…」
「あ~!そう思えばやばいよなっ!!」
と言ってギルが立ちあがった。
「ちょっと俺様トーニョに連絡取ってくるわ。
桜は大丈夫。俺様が言うのもなんだが、あいつにとって絶対服従の“お館様”の俺がそうならない限り、うちの家系は親兄弟でも殺せるから。
で、ルッツはやっぱり未来のお館様として何を犠牲にしても自分を生かせと育ってるから、あいつも平気。
だけど、フェリちゃんと梅はやばい。
だからその2人だけで組ませたら、下手するとジャスティス不在どころか暴走でフリーダム巻き込んで全滅しかねねえっ!
割り切れる人間だけ外にだしゃ良いって事で俺らこうして来てるけど、割りきれねえ奴だけ残したらすげえやばいじゃねえかっ!!」
ザバっとあがるとそう言いながら走って行く。
「なるほど…彼は根っからの現場の人間なのねぇ……」
と、その勢いに目を丸くしながらフランソワーズがつぶやいた。
「エリザのあの話から瞬時にそこまでの結論が出ちゃうんだ…」
「逆にフランソワーズは欧州支部のブレインの頭なのに、そこまでの結論に至らないのか?」
と、アーサーが聞くと、それにはエリザが代わりに答えた。
「ああ、フランソワーズは研究者だから。
早く結論を出して動く現場と違って、情報を集めて推論して、そこから検証に入って、最終結論出す感じ?
急ぐよりも確実性が求められるものでしょ?研究って」
「なるほどな。
確かにトーニョとロヴィみててもそんな感じだもんな」
「うんうん。そんな感じ」
と、2人はしばらくそんな会話を交わしていたが、まずフランソワーズが限界を告げる。
風呂に浸かり慣れしているアーサーと攻撃特化のジャスティスの特性で体力がありあまるエリザと違って、普通の欧州人には長風呂は堪えたようだ。
「「あ~、ごめん!」」
と2人で苦笑して、エリザが服を着ている時には気づかないが、普段は大剣を振り回しているかなりしっかり筋肉がついた腕でフランソワーズを抱えあげると、3人揃って風呂からあがった。
Before <<< >>> Next (11月13日0時公開)
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