秘密のランチな関係後編_12(完)


こうして落ちついてランチを食べながら、イギリスはふとまた不安に思い始める。

「…男心は胃袋から掴め…か……」

イギリスも最近はプロイセンのおかげで少し食べられる物を作れるようになったが、1人だと料理上手という域には程遠い。
おそらくこれから頑張ったところで、飯うまと言われるあたりの国体達にはとうてい追いつく気がしない。

もしそういう国々がプロイセンを好きになったら…?

そんなイギリスの疑問は、全てを語らずともプロイセンにはお見通しらしい。
フォークを手に眉を寄せるイギリスの眉間を、しわが寄ってるぞ、と、指でぐりぐりしながら、ぷすっと笑う。

「あのな、俺様に言わせりゃ、その言葉は片手落ちだ。
正しくは恋に落としてから、落ちた沼から這い出さないように、心地よい日常を提供する事で心を掴んでおけって事だと思うぜ。
その心地良い日常のルーチンの中には絶対に食事は入ってるだろ。
ま、別に自分が作るだけじゃなくても、俺様は一緒仲良く料理したり、自分が作った料理を美味しそうに食べてくれたり…その絶対に毎日存在する時間を楽しくできてれば良いんだよ。
俺様は…お前がとんでもない料理作ってた頃から、それ食ってただろ。
あれ、何度気を失っても性懲りなく食ってたのは、それを嬉しそうに作って出して来るお前が可愛かったからなんだよな、今にして思えば。
単純に美味い飯食いてえって思えばフランスのとこでも行けば食えたのに、それでも楽しそうに料理して、嬉しそうにそれ出してきて…泣きそうな顔で気を失った俺様が意識戻るの待ってたお前が可愛すぎて、ついつい通っちまった。
だから…なんだ、あの頃から比べるとお前の料理ってとんでもなく上手くなってるんだけどな、あの頃と同じように楽しそうに作ってて、嬉しそうにそれ出してきてくれるなら、俺様にとっては胃袋と心を掴むのには世界一の料理だと思うぜ?」


…ずるい…と、思う。
本当にずるい男だ。

普段は騒々しくておちゃらけていて、弄られキャラのくせに、有事には何をおいても守ってくれるし、落ち込んだ時にはまるで人生の師か父親のように深く包み込んで癒してくれる。

ああ、でも確かにそうだ。
世界三大料理の飯うま国家の料理よりも、イギリスはプロイセンの作る料理が好きだ。
それは確かに単純に味だけの問題じゃなく、日本の言葉じゃないが、イギリスに対する愛情がこもっているからなのだろう。

「…美味いにこした事はないけど…長く食い続けるなら、そこにホッとするものがあるのが条件だな」

おそらく日々疲れた時には、イギリスはきっとどんな一流シェフが作る高級料理より、プロイセンが作るランチボックスが欲しくなるのだと思う。
だって弱った心と胃袋は、きっとそこに愛がないと満たせない。

こうして2人は…このあと何カ月も何年も何十年も…ずっとずっと秘密ではない公認のランチな関係を続けて行くのである。






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