初遠征11
まだ現地にすらついていないうちに、すでに暗雲立ちこめる話である。
それでも早急にと言う事でルートには荷物をまとめるように指示して、ギルベルトは1人リビングに降りるとそこで待つ3人に事情を説明した。
その中で最初に口を開いたのはアーサーだ。
まだ青い顔色のまま、それでも声音だけは淡々と
「ん~じゃあ俺とポチの部屋をレディ2人に明け渡すか?
もしくはルートの分の部屋に俺達が移動して、俺らの部屋をフリーダム部員に使ってもらうか。
俺とポチが一番狭い部屋でも問題なくね?」
と、具体的な案を提示し始める。
それにややホッとしたように
「ああ、あたし達は古くからの仲だし、シングルルームで問題ないわ。
それよりフリーダムは人数居るから、そっちに広い部屋回してあげて」
と、エリザが応じた。
「こっちに関して言うなら、戦闘はタマが居れば俺は常時羅刹使えるから多少のものは余裕で踏みつぶせるし、資料や情報の解析と収集はこなったら急務だけど、そのためにフランソワーズがついて来てるし、エリザとフリーダムでフランソワーズを護衛すればなんとかなるだろうから、問題はねえ。
だからやばいのは本部の方なんだけどな……」
と、ギルはくしゃりと頭を掻くが、それに対してもアーサーが淡々と
「それは俺らが気にしても仕方ねえし?
ルートを返すだけ返したら、こっちの諸々が終わるまではどうせ何もできねえなら考えるだけ無駄だから先送り案件だな」
と、当たり前に言うのに、
「タマ~!お前のそういうとこ、すっげえ好き!
惚れなおすわ」
と、その細い身体を抱きしめる。
そうしてそれから数十分後、本部に戻るルートと入れ違いに、二号車両で随行していたフリーダム達が一号車に乗って来た。
「二号車の代わりが来るのは現地着いてからくらいになるな。
それまではどうせ動けないし、温泉旅館でゆっくりしようぜ。
いつでも良い働きをするにはオンオフが大事だしな」
そう、気にしてもどうしようもないなら、なるべく考えない。
最善じゃなかったとしても確実に出来る事をやる。
そんな割り切り体質のおかげで、極東支部は逞しく生き残る事ができたのだろう。
自分はジャスティス最強と言われ続けて実際物理的にはそうなのだろうが、そのあたりはまだまだだと、ギルベルトは反省しつつ、アーサーに倣って言葉を口にする。
自分とそれに感嘆するフリーダム部員達をアーサーがにまにまと眺めているところを見ると、おそらくこれが正解、余裕を見せて周りを安堵させるということが自分の役割として求められていたんだろう。
そう、表面上のことなら自分は何よりそれを求められ強いられてきたのもあり、誰よりもその役割に慣れている。
実際は…守ってやるなんて言いつつ、心は恋人様に守ってもらっているのかもしれないが……
まるでそんなギルベルトの気持ちを見透かしたように、
(みんな、聞きたい奴の口から聞きたい台詞を聞きたいと思ってるからな?)
…だから頑張れ…と、寄りそう、自分よりも遥かに頼りなさげな小さな手が背中を軽く叩いてくる。
ああ、本当に本当に…恋人様には敵わない。
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