初遠征10
さて、襲撃自体はまだ問題がないと言う事はわかった。
いや、全く問題がないかというとそうではないが、敵の勢力がわからない以上完璧を期するなんて事は無理なのだから、気にしても仕方ないレベルの話だ。
となると、問題はもう一つの方だ。
と、聞くと、それまでは淡々と通常運転だったアントーニョが少し考え込むように無言になる。
『きっかけはなぁ…イヴィルやと思うんやけど…』
と、彼にしては自信なさげな声。
常と違うそれにギルベルトも若干の不安を覚えるが、隣にルートが居る以上、そんなそぶりも見せられない。
「なんでそう思うんだ?具体的に何があったんだ?」
と、意識して淡々と聞き返した。
そこでまたアントーニョのため息。
本当にこの男にしてはこのキレの悪さは珍しい。
しかし、結局伝えなければ終わらないと思ったのだろう。
電話の向こうで口を開いた。
『実は親分もその時斧担いで前線でとったんやけどな』
という言葉に、この男は…と、こんなときなのだが苦笑する。
きっとベテラン勢のジャスティスが遠征中だからと、半ば強引に嬉々として飛びだして行ったのだろう。
副本部長の苦々しい顔が目に浮かぶようだ。
『イヴィルの片方がな、親分はわからへんのやけど、フェリちゃんは見覚えある相手やったらしい。
ただ前回とちゃうのは、あっちも攻撃してけえへんかってん。
親分も雑魚退治しとったから細かいとこまでは見てられへんかったんやけど、なんやフェリちゃんイヴィルと抱き合って泣いとって、その間にフェリちゃん攻撃しようとした雑魚はそいつが粉砕しとったから、あっちも少なくともフェリちゃんには敵意ない感じやった。
で、最終的にはもう一体のイヴィル倒した梅ちゃんが間に割って入って、相手は撤退していったわけなんやけど、その時にな、なんや、そのイヴィルがフェリちゃんに手ぇかざして、そしたら光がフェリちゃん包んでん。
最初は攻撃なのかと思ってんけど、別になんも怪我とかせえへんから、なんやろ~て思うてたんやけど、敵が完全に撤退してアームスをジュエルに戻そうとしたら、フェリちゃんの身体に吸収されてもうたから…。
絶対にそれが原因とは言えへんけど、そのせいの可能性が高いんちゃう?
とりあえず…それ以外は特に変化は見えへんし、それがついさっきの事やから、まだなんとも言えへん。
アームス扱えるっちゅうことは、イヴィル化とかはせえへんと思うんやけど、それも絶対とは言えへんしな。
今、各国支部に過去の文献あたってもらったりしながら、今日は疲れとるやろうから休んでもうて、明日からはちょおフェリちゃんの身体をブレインで調べる予定になっとる』
さすがにギルベルトでもぞわり…と不安に襲われる話だ。
どう言葉を返せば良いのかさすがに即思いつかずに考え込んでいると、
『せやから極東支部の跡地とかで何か文献拾えそうなら、調べといて欲しいんやけど…
あと、基地叩くなら出来るだけ情報頼むわ。
そっちもそっちで大変やろうけど、ベテラン勢集まってるからなんとか頑張ったって』
と言われてさらに考え込む。
これは…ルートを返すべきか返さないべきか…。
全てを話せば今でさえ心配して帰りたがっているのだから、絶対に帰りたがるだろう。
ただ…最悪の場合、アントーニョはしないと思うとは言っているが、イヴィルになんらかの影響を受けているのだから、イヴィル化しないまでも、フェリシアーノが操られる可能性はある。
そうなった時に、本部には戦えるジャスティスが2人しかいなくなる。
しかもそのうちの1人桜はヒーラーで攻撃力は皆無だから、実質梅1人だ。
「…ルッツ…本部に返すわ」
と、最終的に判断して、ギルベルトは言った。
「最悪梅1人で戦う事になるって自体は避けてえし…こっちはタマさえ居れば俺様の羅刹を常時発動で力押せる。
さらにエリザまでいるからな」
『それやったらエリザ返した方がええんちゃう?
ギルちゃんがアーティと特攻で道開いて、ルートにフランソワーズ護衛させたったら?』
というアントーニョの提案はもっともだ。
戦力的に…という意味では。
だが……無理だろう。
「フェリちゃんの状況がわからない時点で、ルッツの集中が落ちてる。
自分や俺らジャスティスのカバーなら、ポカやってもなんとかなるが、一般人のフランソワーズの護衛となると、その状態でミスったら死なせることになる。
それならまだ、基地の防衛力によっては俺とエリザで特攻して力押しで道開いて、タマが盾モードでフランソワーズの護衛の方が確実だ。
タマなら少なくともダメそうな時に護衛相手を生かすための判断は間違わない。
ルッツもフェリちゃんが後ろにいれば最強の盾だし、もしそのフェリちゃんが暴走したとしても倒せなくても抑えきる事はできっから、その間に梅とフリーダムで他の敵抑えて、ブレインが残りのジュエル持って撤退だ」
フェリシアーノが敵に操られた場合…確実にルートも相手を倒せないまま危険にさらされるだろうし、最悪死ぬかもしれない。
単純に身の安全という事を考えれば、戦えなくてもこちらにおいておいた方が良いのだが、フェリシアーノの身に起こる可能性を知っていてこちらに止め置いて、最終的に何かあれば、下手をすればルートが敵に回る可能性もある。
身の安全か信頼か……苦渋の決断になるが、ギルベルトが最終的に重要視したのは後者である。
もちろん同じ可能性をアントーニョも考えているのだろう。
しばらく黙りこんで、結局は、もう何度目かのため息。
『せやな。隠しとって相方になんかあって暴走されるっちゅう可能性はギルちゃんの件で身に染みとるしな。
わかったわ。
狭くて悪いんやけど、エリザとフランソワーズを一つの部屋に同室させて、ルートの部屋ともう一部屋に第二車両のフリーダム押し込んで、第二車両でルートを本部に返したって。抜けた分の車両とフリーダム部員は今夜にでも準備させて早急にそっちに送ったるから』
と、アントーニョもその案を了承した。
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