しかも、より親睦を深めるためと称して自炊。
まあ別にサバイバルをやれというでもなく、電気もガスも通ったトイレ、バス、キッチン付きのコンドミニアムを借りての滞在なので、いい方だろう。
組み合わせは無作為にクジで…と言いたいところだが、あまり親しくない…まではまだしも、仲が悪い国同士がいきなり同じ場所で寝泊まりは危険だ。
ということで、組み合わせは主催のドイツが決めた。
まあ親睦を深める目的の旅行なので、コンドミニアムの立ち並ぶ前にある海に面した大きな共同のバルコニーには、椅子と机が並べてあって、天気が良ければそこで食事を取る事にしているし、長く生きているのもあって、国体達のほとんどは料理くらいはこなすので問題ない。
そう、ほとんどは…と言う事は問題があるあたりもいるのだが…。
──…こ…これは…どういう意図があるんですかっ!ドイツさんっ!!
そんな1人に数えられていたイギリスとアメリカと同棟だと知って蒼褪める日本。
ちらりとメンバーを確認すると、あとの1人はプロイセン。
(ああ…プロイセン君なら少なくともアメリカさんの暴走は止めてもらえますね…)
と、秘かに涙する。
黒単色に染まるイギリスの料理も、眼がちかちかするようなカラフルな色合いに染まるアメリカの料理もゴメンこうむりたい。
隣の棟では嬉しそうにドイツと戯れるイタリア。
それにハンガリーとオーストリアが加わっている。
何故…どうして私だけそちらに入れて頂けなかったんですかっ?
元枢軸の仲間じゃないですかっ!!
と、声を大にして主張したい気もするが、主張したところで何も変わらない気もするので、そこは空気を読んで黙っておいた。
さらにもう片方の隣の棟は、フランス、スペイン、ロマーノのラテンズにカナダ。
フランス、スペインと共に悪友トリオとひとまとまりにされるプロイセンがそちらに居ないのも不思議だが、これはもしかすると、味覚音痴の兄弟に囲まれる日本に対する気遣いから、彼らを抑えられるプロイセンを配置してくれているのかもしれない…と思う。
いや、思うではなく、きっとそうなのだろう。
大丈夫っ!プロイセンに彼らを抑えておいてもらっている間に、自分が調理すればいい。
幸いにして命綱である味噌、醤油はしっかり持参してきた。
ここに来る途中の街で立派なキュウリが安かったので大量買いしたし、これを切って甘味噌につけて食べればきっと美味しい。
そんな事を考えながらいそいそとキッチンにそれを運び込む日本。
だが………
「ちょっと、これなんなんだい?」
と、同じくキッチン入りしたアメリカが、きゅうりを一本手に取った。
「…え?…えと…きゅうりです。
ちょっと大きいけど安かったから少し多めに買っておいたんですけど……」
複雑な顔をするアメリカに、日本はそう説明する。
「きゅうりばかりこんなに食べるのかい?」
「いいじゃないですかっ。甘味噌付けて食べると美味しいですよ」
と、さらにそんなやりとりをする2人に割って入ったのはプロイセン。
「お~い、ジジイ。これキュウリじゃねえぞ」
と、アメリカの手からキュウリを取りあげてテーブルに戻す。
「え??」
「うん…俺もそんな気がしないでもないんだぞ」
と、さきほどまでキュウリ談義をしていたくせに、いきなり態度を変えるアメリカ。
そこに最後の1人、イギリスが入ってきて言う。
「ああ、それはズッキーニだな。
他の夏野菜と一緒にトマトとかで煮ると美味い」
「ええええ~~~!!!!!」
キュウリじゃない…キュウリじゃなかった……
ズッキーニ?!
ああ、確かイタリア君のところの料理…らたとうゆ…でしたっけ?
それで食べた気がしますが……
どうやって調理するんでしょう?
イタリア君のところに聞きに行かねば…
などと日本の脳内でクルクル回っている間に、プロイセンは当たり前に
「おい、イギリス、俺の~」
と、どこか慣れた様子でそれだけ言うと、当たり前にエプロンをつけたイギリスが
「ああ、持ってきてる」
と、普段プロイセンが愛用している黒いエプロンを手に駆け寄ってきた。
何故か阿吽の呼吸である。
…え???
と、それに驚く日本とアメリカ。
そんな風に驚く2人に構う事なく、プロイセンは
「ズッキーニなら別に普通に調理すりゃいいだろ」
と、ズッキーニを手に取り、それを小さく投げてクルリと回転させると、パシッと手で受け止めて、水洗いする。
Before <<< >>> Next (11月7日0時公開)
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