初遠征7
「…お前……」
と、そこでギルベルトが激怒して口を開く前に、アーサーがフハッと吹きだして、その場の空気が色々な意味でいったん止まった。
と、言うアーサー自身は別に怒った様子もなく、その声音からするとむしろ面白がっているようなので、ホッとするエリザと、激怒とまでは行かなくなってそれでも憮然とした顔のギル。
さすがに2人の表情の変化とアーサーの言葉で気づいたらしい。
「…ごめんなさい……」
と、正直さきほどの状況の大変さは傍若無人と言われる彼女でも堪えたのだろう。
割合と素直に受け止めて肩を大きく落とした。
そこでアーサーが淡々と続ける。
「極東には『郷に入れば郷に従え』って言葉があって、意味はまあ…自分が身を置いている土地のやり方に合わせろって事なんだけどな。
欧州支部ではあんたはトップだったし割とNGはなかったのかもしれないけど、本部は本部長のロヴィやトーニョでも周りの気に障る事を言い過ぎれば仕事に支障が出る所だから。
まあそれでもポチとエリザが機能してればたいていの事はなんとでもなるから、逆にそのあたりを突くのは止めておいた方が良い。
とはいっても、怒らせようと思って怒らせてるわけじゃないだろうし?
最悪間違って誰か怒らせたら自分でなんとかしようとすんな。
とりあえずは俺か桜の所に相談にくればなんとかする。
大丈夫かどうかもわからなければ同じ。俺か桜にきいとけ。
これは忠告」
「…その人選の根拠は?」
「ん~。とりあえず俺と桜は元々ジャスティスには人権ない極東育ちだから?
多少の事言われてもそれで仕事に影響はさせないのが原則になってるし。
でもって、本部長2人はフェミだから、大人しそうな女の桜が言えばそれなりに聞くだろうし、俺自身にはそんなに人脈はねえけど、俺にはポチがいるからな。
ポチが介入すればジャスティス周りならたいていの事はなんとかなる。
そんな感じか」
なんでもない事のように言うアーサーの前半の言葉にその場にいる3人が言葉を失くして黙り込む。
そして
「…なんか…ごめん。その“多少”に入ること言っちゃったのね、あたし」
と、フランソワーズがうなだれた。
それに対しては、アーサーは
「いや?さっきの質問に関してなら、俺は全然?」
と、あっけらかんと答える。
へ?とそれに3人がそれぞれ驚いて顔をあげた。
「懲りない性格って言ったのは、単にポチに同じようなこと言ってキレられたとこだったからってだけ。
快不快は人によって違うけど、他が怒ったってことは普通だとさ、怒られるリスクあるっていうことで、同じような質問はさけるんじゃね?
あ~、まあ参考までにさっきの答えな?
仲良い相手がいたか言ないかと言えば、割合と親しいあたりは一緒に本部に来たから、あの時に極東残ってたのは数える程度だな。
まあそれでも死ぬよりは生きてた方がめでたいとは思う。
ただ、ブレインの支部長とかストーカー野郎だったから、そのあたりは居なくなっていてくれた方が世のため人のためだとは思うけど」
「あ~タマがそうして欲しいなら、俺様が消してやってもいいぜ?」
と、最後の一言に反応してアーサーを後ろから抱きしめるギルベルトに、
「あ、はいはいっ!あたしもそれ参戦したいわっ!」
と挙手するエリザ。
しかしそこは本当にやりかねない攻撃特化型2人に
「もう関わる必要ないし、無駄な時間過ごすならその分楽しい事に費やした方が良いからやめとけ」
と、きっぱりと言った。
こうしてそれで完全に対ギルベルトに関する空気は元に戻ったところで、アーサーがちらりとあたりを見回して
「ルートは?」
と、自分達が2階にあがった時には居たはずのギルベルトの弟について訊ねると、フランソワーズはちょっと気まずそうにエリザに視線を送り、エリザが代わりに答えた。
「あ~…実はルートもちょっと滅入って……ギルにアーサー君ならルートにはフェリちゃんかなと思って、フェリちゃんの方から電話かけてもらうように頼んでおいたんだけど…」
なるほど、そのあたりはさすがに扱いを心得ていると思うものの、電話で話しているにしてはあれから数時間はたっているし、やけに遅い。
何か揉めているのだろうか……
考え込むギルベルト。
それを見てアーサーが
「俺が見てくるか?」
と言うが、首を横に振り、
「いや、おかげで俺様はだいぶ冷静になったしな。
あいつのことなら俺様の方がわかるから、俺様が行くわ」
と、その額に口づけを一つ落として立ち上がった。
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