秘密のランチな関係後編_3


「あ~、もう、お前可愛いなぁ!!なんだよ、それっ!!!」
笑いながらもグリグリとまた頭を乱暴に撫で回される。

「ふざけてんなっ!」

その体温にほだされそうになって、イギリスはハッと我に帰ると、グイ~っとプロイセンを両手で押しのける。

イギリスよりはかなり腕力は強いはずのプロイセンは、それでも押しのけられてくれた。
そして、少し身体を離して、今度は両手でイギリスの頭を固定して、視線を合わせる。

「他の奴にも弁当もらうの、嫌か?」

にこりと…しかしどこか真剣な眼差しで問うプロイセンから思わず目を逸らしたくなったが、もうこれがこんな接触最後かもしれないと言う気持ちが、かろうじてそれを抑えて、プロイセンを正面から見返す気力を絞り出した。


「……嫌…だ」

その返答にプロイセンは苦笑する。


「あのな、そういう事いうと、お前の言葉じゃないけど、特別な感情持ってるように勘違いされるぞ?」

「…勘違いじゃ…ねえよ、ばかぁ!」

どうせ失恋するならちゃんと告白して振られて泣いてやるっ…と、半ばやけになってイギリスがいうと、プロイセンの顔からスッと笑みが消えた。


「あのな、俺様の特別ってのは、身体触りてえし、キスもしてえし、その先だってしたくなる。
そういう特別だ。わかって言ってんのか?」


当たり前だ。
自分は貪欲なのだ。

特別とか言っておいて、他の人間とそんな事された日には確実に相手を社会的に抹殺する方向で動く自信はあるっ。

わかってないのはプロイセンの方だ。

イギリスはガシっとプロイセンのシャツの首元を掴んでそのまま身を乗り出した。
そしてそのまま呆然としているプロイセンの唇に自らの唇を押し当てる。

色気も何もない、ただ唇と唇を押し当てるだけのファーストキス。

相手のプロイセンも呆然としている。


「…お前が悪い。だから…」
「ああ?」

唐突に言われた言葉にプロイセンは首をかしげる。


「奪ってやったぞ」

もう何かが吹っ切れたイギリスの言葉にプロイセンは

「お前はぁ……」
と言ったきり絶句してうつむいた。

サラサラの銀色の髪の間からちらりと覗く耳が真っ赤だ。


勝ったっ!と、何に勝ったのかもわからないがそう思ってドヤ顔になるイギリスを、今度はプロイセンがグイッと引き寄せた。


「お前…ここが密室のソファの上だってわかってやってんだろうな?当然」

ニヤリと凶悪顔になるプロイセンに、イギリスはハッとして顔をひきつらせる。

「い…いや、…だって…だって…職場だぞ…」
「誰もいなくなったあとの…な?」


いやいや、したくないかと言えばそうでもないが、まだそこまでの覚悟は…とワタワタするイギリスに、プロイセンはクスっと笑った。


「う~そっ!いくら俺様でもいきなり襲わねえよっ!
でもお前もホントちったぁ後先考えて行動しろよ?
本気で襲われかねねえぞ?
ホント、しっかりしてるようで、抜けてるっつ~か、危なっかしいっつ~か…」

いつものプロイセンの態度にイギリスはホッと緊張を解く。


「ついでにそそっかしい嫁さんの誤解解いとくか。
ベラルーシの事言ってんなら、確かに今日弁当受け取ったが…あれは単に味見して欲しいっつ~ことで頼まれただけだ。
ロシアに渡したいんだとよ。
で、毒見しろときたもんだ。
一応言っておくと、渡されたのは俺様だけじゃねえからな?
リトアニアやラトビア、エストニアも食わされてるから。
まあ味の好みなんて人それぞれだって言ったんだけどな?
それでも良いから食って感想聞かせろって言われて一通り食ってみて、アドバイスしただけだ。
俺様個人に弁当作りたいって言われたら断ってたけどよ」

「…ホント…か?」
「おうっ。こんな事で嘘ついてどうするよ。」

自信満々に答えるプロイセン。

なるほど。
クソ髭の妄想まみれの話より、プロイセンの言う事の方が真実味がある。

まあ…もしそうじゃなかったとしても…プロイセンが関係を否定するなら、希望があるなら、この勝負だけは負けるわけにはいかない。


「じゃあ…これからはお前の嫁は俺だけって事でいいな?」

言質を取ってしまおう。
そう思っていうと、プロイセンは

「おう。でも俺様も浮気とか許さねえタイプだかんな?」
と、笑う。

しかしその後さらに

「ま、でも大事にはしてやっから。
とりあえず今日は家に来い。
来ると思って、食事はもちろん、お前が好きそうな菓子とか焼いてあんだよ」

と、ほら、これが証拠、と、自分の携帯に取ったケーキを見せてくれる。


「さ、もう帰るぞ。
俺様、自分の荷物持って迎えに来るから支度しとけ」

そう言ってイギリスの返事も聞かずにプロイセンは部屋を後にした。



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