青い大地の果てにあるものGA_13_5

初遠征5

一方で、そんな戦闘前にすでに疲れたエリザのいるリビングを出て、自室に戻ったギルベルトは、こちらも秘かに(やっちまった…)と頭を抱えている。


別に実家を訪ねろと言われているわけではない。
たまたま実家がある極東支部で仕事があった、それだけのことなのに、何故過剰反応をしてしまったのだろうか…。

同じジャスティスのエリザやルートはもちろんとして、フランソワーズだって遊びで付いてきたわけではない。

それぞれに必要な仕事があって、それぞれと連携を密にして、速やかに任務をこなさなければならないところなのに、そこでわざわざ場の空気を悪くするなんて、自分は何をやっているんだ…と、思う。

そんな自制心のない人間として育てられてはいないはずだ…と、自責の念にかられながら、さて、どうフォローをいれるか…と落としどころを考えながら荷物整理をしていると聞こえてくる軽い足音。

あ、これ、すげえ機嫌良い?
とわかってしまう程度には常に一緒に居る恋人様の足音に、重い気持ちが少し軽くなった。

そんなギルベルトの予測通り、ノックもせずに開くドアの向こうに満面の笑みの恋人様。

ああ、可愛い。マジ可愛い。
と、そんな愛らしくも愛おしい顔を見られる自分の幸運さに気分が本格的に浮上してくるが、恋人様がもたらす幸せはそれだけじゃなかったらしい。

「ぽち~、やったぞっ!でかしたっ!高級温泉旅館だ~~!!!」
と言いながら抱きついてくる。

やった?でかした?温泉旅館?

褒められてる?なんだか俺様、愛しのタマに褒められてる?
と、それで気分は急上昇。
我ながら本当に飼い犬かよ、ポチかよ、と思うものの、嬉しいことは嬉しいのだから仕方がない。

だが、さすがにその言葉だけでは理解できなくて、
「なんだ?それ?」
と聞き返すと、アーサーは腕の中からにこにことギルベルトを見あげてきて言った。

「お前のな、機嫌を直させれば、フランソワーズが高級温泉旅館を手配してくれるって!!
俺、物ごころついた時からジャスティスだったから、旅行なんて行ったことなかったし、温泉入った事もないから、すっげえ楽しみでっ!!」

なるほど。そう来たか。

「俺様が機嫌直す前提か?」
と、元々落としどころを探していた身としてはホッとしながらも苦笑すると、恋人様はさも当たり前のように

「別に実家を訪ねろとか言われてるわけじゃなし、過ぎた実家生活より俺と楽しく温泉旅館の方が大事じゃね?」
と、言い放ってくれる。

ああ、本当に。
恋人様はいつだって最高だ。

そんな事を思いながら
「全くもってその通りだな」
と神妙な顔で頷くと、恋人様も神妙な顔で
「だろ?」
と頷き返して来る。

傍若無人なように見えて、実は人一倍苦労してきた分、人一倍他人に気を使うアーサーの事だ。
本当は自分が悩んでいる事を知ってこんな提案をしてくれたのかもしれないし、そうでなく偶然なのかもしれない。

だが、どちらにしても助かるのは確かだ。
と、そんな事を考えていると、腕の中の恋人様は何やらごそごそとなさっている。

「た~ま、何してるんだ?」
と、問いかければ、手は休まずに
「ん~、ナニを出してる」
と、にっこり。

「なんで?」
とさらに問えば、びっくり眼。
「お前…ヤル以外になんで出すと思うんだ?」
と言われて苦笑した。

「唐突だな。今からヤルのか?」
とさらにさらに聞けば、こっくりと頷く。

まあそう言う事なら付き合うのはやぶさかではない。

「良いけど、ちょっと待ってな?布団敷くから。
でないとつい畳に押し倒しちまってタマに痛い思いさせたら嫌だしな」
と、いったんアーサーの身体を離すと、いそいそと布団を敷く。

そして抱きつぶして自分よりも遥かに体力がないアーサーがオチたあとに思った。

ああ、あれはやっぱり前者、自分を気づかってくれての提案だったんだな…と。



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