秘密のランチな関係後編_1

「プーちゃんの例の弁当の彼女、誰かわかったでっ!」

それは会議後、いつものメンバーで集まっての雑談中の言葉だった。

ドヤ顔で言うスペインは別にイギリスの方を見てはいない。
つまり…イギリス以外の誰かだと思っているという事だ。


(甘いな、スペイン)

イギリスは心の中でふふんと思いながらも、どうせわけのわからない当てずっぽうだろうと余裕の視線を送っている。

まあ所詮トマト頭だ、と、イギリスが生暖かい目で見ているのにも気づかず、

なんとっ!ベラルーシなんやでっ!!


と、スペインが自信満々に挙げたのは、ロシアの妹だ。
兄のロシアを愛してやまない、無愛想な美少女である。

その名を聞いた時、(ああ、やっぱり当てずっぽうだったか…)とイギリスは内心呆れたわけだが、続くスペインの言葉は聞き捨てならないものだった。

「今日、親分な、ベラルーシがプーちゃんに弁当箱渡してんの見てん。間違いないわっ!」


(え……っ?)

一瞬…空気が凍った気がした。

…が、

「それ本当かよ?何かの勘違いじゃなくて?」

と、疑わしそうに眉をひそめつつ言うロマーノの言葉で、イギリスはハッと我に返った。

「プロイセンの彼女って、控えめで気遣いのできるベッラなんだろ?
確かにベラルーシは美人だけどよ、そういう一歩引くタイプじゃない気がしね?
そもそもあいつ、兄貴はどうしたよ?
ロシアの事は諦めたのか?」


そうだった。
確かにそういうタイプではない。
ベラルーシはロシア以外にはキツイ女だ。

うんうん、やっぱり所詮スペインの……

………
………
………

いやいや、問題はそこじゃないじゃないか、俺!

一瞬納得しかけたが、ハッと我にかえるイギリス。

問題はベラルーシがプロイセンに弁当を渡してそれをプロイセンが受け取ったという点だっ。



「甘いね、ロマーノ」

と、そこでしたり顔のフランス。

そのドヤ顔に腹が立つ。
まだ何も言っていないが腹が立つ。

チッチッチッというように指先を振る動作に、イギリスはその指をへし折りたくなる衝動に駆られた。

「愛の伝道師、フランスお兄さんの意見としてはね…」

ファサリっ!と髪をかきあげる動作。


こいつは何故いちいちキザな仕草と共にドヤ顔をするんだろう…。

ああ、そう言えば、日本の国では

気に障る≫と書いて、≪気障(キザ)≫と読むらしい。

まるでフランスのための言葉みたいだよなぁ……

イギリスはそんな事を考えながら気を紛らわせて、必死にあの集団の中に飛び込んでフランスを殴り倒したくなる気持ちを抑えた。


そんな風にイライラをイギリスが抑えている間にもフランスの考察は続いている。

「プーちゃん、一応ロシアのとこにいたから、ベラルーシと接点あるしね。
でもって、あの子末っ子でしょ。
プーちゃんはお兄ちゃんだから、ロシアにすげなくされて落ち込んでる妹なベラルーシを放っておけなくて、面倒みちゃったとかいう可能性も十分あるし?
プーちゃん元修道院、元騎士団だから、相手が被保護者だって認識しちゃったら、優しいとこあるからね。
ベラルーシが邪険な態度取っても普通に優しいお兄ちゃんな態度だったりして、ベラルーシも素直になれないまでもほだされてきたあたりで、でもベルリンの壁が取り払われてプーちゃん帰っちゃって、ベラルーシもそこで1人になって、初めてプーちゃんの存在の大きさに気づいて、自分から歩み寄り…みたいな感じ?
まあ美男美女でお似合いじゃない?」


確かにイラついていたはずの気持ちはいつのまにかもっと深く暗い方向へ向かっている気がする。
すでにフランスに対する感情もなく、その声も遠くに感じた。


ここ最近、プロイセンに弁当を作っていたのはベラルーシじゃなく自分だっ!

と、声を大にして割って入りたい。
イギリスは泣きたいような気持でそう思った。


そう、皆に対して秘密を持ちたいなんて口実だったのだ。
少しでもプロイセンに喜んでもらえれば…一緒にいたいと思ってもらえれば…本当はそんな事を思って作っていた。

強いて秘密という言葉にこだわるということならば、『みんなに秘密を持ちたい』ではなく、『プロイセンと二人きりの秘密を持ちたい』というのが正しいのだ。

二人きりの秘密を持ってプロイセンの特別になれた気がしていた。
でもそう思っていたのは自分だけだったのだ。

プロイセンにとっては一人ぼっちで浮いている可哀想な同僚の頼みを聞いてやったにすぎなくて、弁当だって自分が作ったからもらってくれたわけではなく、他に食べて欲しいという人間がいればもらってやるのだ。

ずっと皆に遠巻きにされ続けたことより、それはひどくショックな事実だった。


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