それでなくとも会議終了後で皆帰りかけているので、この時間からわざわざ控室を使う国体もなく、1人きりになってホッとする。
そして膝に顔をうずめた。
こうしていれば声も漏れない。
そう、イギリスは泣きたかったのだ。
腹が立つ時にはどこでもよく泣くイギリスだが、本当に悲しい時には1人で泣く事にしている。
だって自分は国だから…
いつだって弱みを見せれば攻めてこられた。
だから…だから……
グスン…と1人で鼻をすする。
……寂しい
悲しい時、弱っている時、誰かが慰めてくれる、癒してくれるという経験をしてしまうと、1人で泣いていると消えてしまいそうな気がしてくるほど寂しくて、胸が痛い……
そう、イギリスにとっては、そうやって1人で泣いていた時に損得関係なしに慰めて自宅に誘ってくれたあの日から、プロイセンは特別なのだ。
自分にとっては本当に特別な相手…でも向こうにとってはそうではなかった。
それは本当にひとりぼっちの頃より絶望的に悲しく寂しい気分になる。
完全に理想の…おそらくこの世の誰よりも好きになれる相手だとわかった時点で自分は逃げるべきだったのだ。
だってもうそんな相手に愛し愛されるなんていうささやかな夢すら見ることが出来なくなった。
心を預けてしまう前になんか戻れない。
初めてプロイセンの家に行った日…泣いたら優しく頭を撫でてくれた大きな手。
その手はさらに落ち込んでいるイギリスのために美味しい料理を作り出し、時に慣れない料理に奮闘するイギリスの手を取って教え助けてくれた。
勘違いしても仕方ないじゃないか…。
周りにいたのは敵意を剥きだしにしてくるか、優しくしてくれた事に気を許したら騙して侵略してくるような奴ばかり。
そんなものに囲まれて育った中で、体温を…人の温かさを感じるような距離感で接してくれたのはプロイセンだけだったのだ。
そんな風に悲しくて切なくて、声を殺して泣いていた時である。
「あ~……お前なぁ、一人で泣いてんなよ。
そのくらいなら俺様にメール入れろって言っただろうが」
「う…うあああああ~~~!!!!!」
ひょいっと手が伸びてきてグイッと半身起こした身体を大きな手が引き寄せた。
こんな隣に来るまで全く気づかないくらい滅入ってたらしい。
驚きすぎて、英国紳士の嗜みなど吹っ飛んで思わず悲鳴をあげたが、不幸にしてなのか幸いになのかわからないが、すでにほとんど人がいないので、誰も気づかない。
唯一、
「あ~、お前今日一人だよな?
ちょうど良かった。うちに来いよ」
などと、悲鳴に驚くこともなく当たり前に言うイギリスの残酷な想い人は、ごくごくいつものように当たり前にその大きな手でクシャクシャとイギリスの頭を撫で回した。
そう。
“うち”というあたりでわかるとは思うが、今日の会議はドイツで開催されている。
「ぷ…プロイセンっ。お前、後片付けとかはっ?」
慌てて手の甲で涙をぬぐってイギリスが聞くと、
――目、こすんな。赤くなるから――
と、プロイセンはその手を外させて、自分のハンカチをソッとイギリスの目に押し当てた。
粗暴に見えるくせに、きちんとプレスしたハンカチを携帯しているあたりが、ずるい。
当たり前にそれで涙をぬぐってくれるなんて、かっこ良すぎだろうがっ!!
お前が全部悪い。
俺が勘違いして好きになってもしょうがないじゃないかっ!
内心そんな事を思いながら、イギリスがキッと睨むと、プロイセンは、
――あ゛?――
と、不思議そうに首をかしげる。
そんな表情すらいちいちカッコイイ。
「お前…こんなとこにいるって、体調悪かったんじゃねえの?」
熱はねえな…と、コツンと額と額を軽くぶつけるプロイセンに、イギリスは目眩がして倒れるかと思った。
やめろ、ばかあっ!
お前のそのかっこ良すぎる顔は俺にとってはすでに凶器だっ!
…などと言えるはずもなく、かと言って言葉の出ないイギリスの態度をどう取ったのか、プロイセンは
「そう睨むなよ。しかたねえだろ?
受付に聞いたら帰ったわけじゃねえみたいだし?でも会議室には姿ねえし?
そしたら、いつもみてえに体調悪いのを他人に気づかれねえように身を隠してんのかと思ったから…
未来の嫁候補が体調崩して寝込んでるかもとか思ったら飛んでくるしかよぉ…」
と、苦笑した。
あああああ~!!!!!!!
もうどうして諦めなきゃとか思うはしから、そう諦められなくなることを言うんだ、この男はっ!!
もうぎりぎりだった。
「俺じゃなくても…食べて欲しいって言われたら弁当受け取るんだろっ?!」
ああ、ホントもう終わりだ。
みっともない。
英国紳士とか言う以前に、普通の男としてみっともない。
そうは思うものの涙も言葉も止まらない。
「なんでそんな特別とか勘違いするような優しい態度とるんだっ、ばかあっ!
俺は悪くないっ!
お前が全部悪いっ!!!」
叫ぶようにイギリスがそう言い切ると、プロイセンはぽか~んと口を開けて呆けた。
ああ…呆れられた…。死にたい……。
そうイギリスが思った瞬間……
「お前、もしかしてそれかぁ?!!!」
あろうことか、プロイセンは思い切り吹き出したではないか。
「何も笑うことっ……」
憤りの言葉を述べようと思ったイギリスの言葉は、グイっと頭をプロイセンの胸元に抱え込まれた事によって中断させられた。
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