アーサー視点
二つの救出2
なるほど、それでか。
大切な人の遺品を勝手に、しかもおそらく父はふざけてだと思っている女装に使われたら、怒るだろう。
そう納得しかけたのだが、話はそう単純なものではなかったらしい。
アリスの目から見ると、父は怒っていると言うより錯乱していると言った方が良いレベルで、結局母が宥めて宥めて、最後には何か薬を飲ませて寝かせたようだった。
その様子をドアの影からおそるおそる覗いていたアリスに気づくと、母はため息交じりに言ったのだ。
──あの衣装ケースを開けてしまったのね…
と。
そこで母は父が寝ついたのを確認後、アリスを伴ってリビングへ。
「紅茶を一杯淹れて頂戴…」
と、疲れたようにソファに身を投げ出した。
アリスは料理は出来なくとも、紅茶を淹れるくらいは出来る。
しかしそれは飲んで差し支えのないという程度のモノで、母やアーサーのように美味しく淹れられるわけではないので、母はいつもならまずアリスに紅茶を淹れるようには頼まない。
アーサーに頼むか、アーサーが居ない場合は自分で淹れるかだ。
そんな紅茶にはこだわりのある母が自分にそれを頼むくらいには、疲れているらしい。
アリスは黙って紅茶を淹れてきたのだが、礼を言ってそれを受け取った母は、そんな時でも一口飲んで微妙な顔をして、二口目は口にしなかった。
父に毛嫌いされるアーサーは可哀想だが、いつでも口では文句は言わないが黙って態度で母にダメ出しをされる自分も大概可哀想なんじゃないかとアリスは思う。
まあ、今はそれを口にして良い時ではない気がするので、言わないが…。
本当に…アリスは母が苦手だった。
物腰が柔らかくて趣味も外見も女性らしくて、不満があっても直接的に嫌な事を言ったりはしないが、言われないだけにこちらも言い返せない。
いっそのこと父のようにキレてくれた方がこちらも怒鳴り返せるだけ楽だと思う。
母といるといつも自分が女失格の烙印を押され続けているようで、気が滅入るのだ。
だから最初は
「親子でもどうしても受け入れられないってあるのよねぇ…」
と言う母の言葉は自分と母の事だと思ったのだが、続く
「アーサーが産まれた時から不穏だったけど…育つにつれてどんどん悪化してきてるのよね…」
とため息交じりに続いた言葉で、それが今回の諸々についてのことなのだと悟った。
「そのことなんだけど…パパは何故あんなにアーサーを嫌うの?
それにさっきの服の事、あれはなに?」
グダグダと愚痴に付き合うつもりはない。
端的に気になる事を聞いてくるアリスに母が、なんて情緒のない…と言わんばかりの視線を送って来たがスルー。
そういうものが欲しいならアーサーに求めて欲しい。
自分には無理だ。
「理由がわからないとトラブルも避けようがないわ」
と、さらに促すと、母の方が諦めてくれたようだ。
「そうね…あなた達ももう自分で色々考えて行動して良い歳だものね」
と言うので、
「まったくもってその通りよ。
だから包み隠さず教えてちょうだい」
と頷いたら、すごく嫌な顔をされた。
──アーサーはね、お祖母様に似すぎてるのよ……
母はそう言って語り始めた話は、確かになかなかヘビーなものだった。
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