アーサー視点
二つの救出1
ギルの叔父、フリッツも少し遅い朝食を摂り終わって身支度を終えると、アーサーが連れて行かれたのは病院だった。
殴られた頬もギルがすぐ冷やしてくれたので痣とかにもなってはいないし、あとになっているとすれば、背中など、外から見えない部分だけである。
だからそのくらいで病院になんて、そんなところがギルの叔父らしいが心配性だなと思ったのだが違ったらしい。
必要なのは“暴力によって怪我をした”という証拠のようだ。
もちろん病院では小さな傷も丁寧に手当してくれて、左右をギルとフリッツに囲まれ労わられながらの移動ではあったのだが…。
ギルと2人で会っていた時もいつも思っていたが、叔父のフリッツが加わって2人にエスコートされて改めて思う。
彼らといると本当に自分が姫君にでもなったみたいだ。
病院を出て車で移動中、次の行き先が自分の家だと聞かされて思わず固くなるアーサーに、
「「大丈夫、お姫さん(姫君)の事は何があっても守るから(ね)」」
と、口を揃えて請け負うあたりは、雰囲気は違っても同じ血筋だと思った。
「まあこういう交渉ごとは大人に任せておきなさい」
と、穏やかな紳士が鷹揚な様子で言う。
決して威圧的だったり声高だったりするわけではないのに、どことなく頼もしい。
そんなところはギルに似ている気がした。
実際色々が準備万端で、実は昨日のうちにアーサーの両親にはすでにアーサーを保護していること、遅いから泊めることを電話で伝えたうえで、今日すこし話をしたいのでとアポイントをとってあるとのことである。
それと並行して知人の医者にアポイントをとって怪我を診て診断書を書いて欲しいこと、さらに知人の探偵にアーサーの家の身辺についての調査依頼をしていたというから驚きだ。
何もかもが全て整えられていて、アーサーが何か怯えたり心配したりする事は何もないのだと、ギルから説明を受けて、正直この人達はいったい何者なんだろうと思った。
アーサー1人のためにいつのまにか完璧に整えられていた保護体制。
ウサギの国には王子様だけではなく、王様までいて、みんなでアーサーを守ってくれるらしい。
こうして昨日飛び出したアーサーの自宅に到着。
呼び鈴を鳴らすとまずアリスが飛び出て来て、泣きながらアーサーに抱きついてくる。
それにわずかに遅れて出てくる母親。
フリッツに礼を言いつつ、リビングへと案内した。
アーサーも一緒に行こうとしたが、母にアリスと一緒に自室にいるように言われたので、それに従う。
自分について自分がいないところで話し合われる事に不安がないわけではなかったが、ギルが居れば大丈夫という思いと、何より普段気の強い妹がずっと泣きながら離れないのに心が痛んだので、アリスと手を繋いで自室へと戻った。
「…心配かけてごめん……」
と、アリスと並んでベッドに腰をかけると、まず謝る。
兄妹喧嘩をした時も、互いに何かスレ違いがあった時も、いつでもまず謝るのはアーサーだった。
アリスは素直に謝るのが苦手で、そう言えばあまり直接的に謝って来た事はない。
それでも口で言えない分、何かしら行動で埋め合わせをしてくれるので、2人の間ではあまりそれで揉めたことはないのだが、今回は違った。
「…ごめん……ごめんなさい。
あたしが悪いの…」
と、泣きながら首を横に振る妹。
そもそもこんな風にアリスが感情的に泣くのも珍しい事だ。
だからちょっと驚いて、でもいつも一緒の双子の片割れがいきなり一晩帰って来なかった事はそれだけ彼女のショックを与えたのだろうと、アーサーは申し訳なく思う。
「いや…女の子の格好に関しては俺も楽しんでたから…」
と、だからきっかけを作ったアリスのせいではないと言うつもりだったのだが、アリスは首をまた横に振って言った。
「違う…違うの。
パパがね、キレた一番の理由はその服なの」
「へ?これ?」
アーサーは改めて自分の服に視線を落とした。
そして次のアリスの言葉で納得する。
──その服ね、亡くなったお祖母様の服だったのよ
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