ツインズ!9章_1

ギルベルト視点

ギルベルト・バイルシュミットの自覚1



幸いにしてそのあとすぐくらいに列車は復旧。
動き出した。

そして次の駅。

「…ありがとうございました…私はここで……」
ぺこりとお辞儀をする彼女に、

「1人で大丈夫か?」
と、声をかけると、そこで彼女は初めてふわりと微笑んだ。

まるで朝露に濡れた蕾が花開いていくような愛らしい笑み。

「はい。…い…兄と駅のホームで待ち合わせているので…」
と言う彼女。

それを聞いてギルベルトは迷わず彼女を追って電車を降りる。

そして

「……?」

「兄貴と合流できるまでは付き合う。
さっきの痴漢野郎とか別の変な奴とか来たら怖いだろ」

不思議そうに振り向く彼女と並んで歩きながら、ギルベルトが言うと、彼女はポカンと口を開けて呆けたあと、

「あ、ありがとうございますっ」
と、真っ赤になって俯いた。




お嬢様だから…なのだろうか…。
それとも人見知りなのだろうか…。

別に怯えられているとか、警戒されているとか、そんな感じはしないのだが、一緒に歩いていても随分と雰囲気がぎこちない。

彼女に歩調を合わせて随分とゆっくり歩いているつもりなのだが、気をつけないと置いていきそうだ。

「あのさ…もしかして人見知りだったりするか?
兄貴いるって事は、男ダメとか言う事もないだろうし…」

と言うと、彼女はビクッと身をすくませて

「ご、ごめんなさいっ…」
と、オロオロと動揺するので、あ~悪いこと言っちまったか?と言う気分になって、ギルベルトは

「ああ、別に不快とかじゃなくてな。
人多いしあんまり離れて歩いてるとはぐれたら困るだろ?
だから、ほら、どうぞ?
お姫さんの方から掴まるだけだったら、嫌になったらすぐ放して距離とれるから」

と、腕を差し出した。

さっきあんな事があったばかりだし、知らない男が怖いのは当たり前だ。
だからギルベルトの方からは触れない。
飽くまではぐれないために彼女の方から彼女のタイミングで掴まってもらえば良い。

そう思って提案すると、彼女は

「…ありがとう…ございます…」
と、少しはにかんだように微笑んで、小さな手をちょこんとギルベルトの肘に置いた。

飽くまで表情には出さないが、そんな反応にいちいち胸がドキドキする。
それでいてそれが決して不快ではなく、むしろ楽しい気分なのが不思議だ。

本当に感動モノだ…と思う。

ふわふわとして小さくて、人形のように綺麗だが冷たさがなく、雰囲気としてはむしろ小動物…いや、天使!そう、天使だっ!!

重さをまるで感じない軽やかな足取り。
ふわりと香る良い匂い。

待ち合わせの場所につくと、おそらく同じ学校なのだろう。

対になるような色合いの制服を着た線の細い少年が立っていた。

「アリスっ!どうしたのっ?!」
と、駆け寄ってくる声はまだ声変わり前のソレで、背も妹とたいして変わらない。

おそらく中学生くらいか。

そっくりとまではいかないまでも、一目で兄妹とわかるような似た顔立ちをしているが、やはりそこは性差なのだろう。

優しい面立ちの妹よりも意思の強さを感じさせるシャープな顔立ちをしていた。

「あなたは?」
と、自分より背の高いギルベルトに臆することなく、見あげてくる視線は鋭くキツイ。

涙が残る顔で見知らぬ男に連れて来られた可愛い妹…という図式なら、それは実に正しい感情だろう…と、ギルベルトも思う。

そこで少女をゆっくりと兄の方にうながしてやると、少女の方が慌てて今にも喧嘩を吹っ掛けて来そうな兄を制して言った。

「アリ…っ……アーサー違うっ!
この人は…その…助けてくれて……心配して送ってくれた良い人で……」

恥ずかしがり屋のようだし、自分で性的な被害は口にしにくいのだろう。
最後はごにょごにょっと小さくなる声に、ギルベルトは一応、と、自分で説明をする事にした。

「あのな、妹ちゃん電車で痴漢にあって泣きそうだったから保護して、痴漢自体は逃げちまったから、ここまで来るまでにまた粘着されたりしたら危ないし、送って来たんだ。
俺様、これから学校だから、もう行くな?
じゃ、2人とも気をつけてな~」
と、簡単に説明を終えると、ヒラヒラと手を振って元来た道を急ぐ。

ギルベルトは割合と余裕を持って自宅を出る方だが、今日は少々時間を取られすぎた。
遅延証明がでるほどの遅れではなかったので、急がないとさすがに遅刻する。

二段飛ばしで駅の階段を登っている時にチラリと視線を下に向けると、先ほどの兄妹がぺこりと揃ってお辞儀をしてきた。

それに笑って手を振って、ギルベルトは今度こそダッシュで階段を駆け抜け、ホームへと駆け込んだ。


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