ギルベルト視点
恋はするモノではなく、落ちるモノ2
(あ~、ちくしょうっ!いざとなったら土下座か?)
と、半ばやけくそにそんな事を考えていた時、ガタっと大きく揺れて止まる電車。
『ただいま線路内で不審物を発見。確認のため列車をしばらく停止いたします。
皆様お急ぎのところ大変ご迷惑をおかけします』
(まじかよーー!!!)
ざわつく電車内。
ああ、本当についてないとギルベルトも肩を落とす。
流れが止まる景色。
どのくらい停車しているのかはわからないが、とりあえず長くなるなら本でも出したいところだが……
周りが女性だと手を降ろすのは危険だ…と、ギルベルトは自分の周囲を見回して、そこでドア近くの手すりにつかまっている女の子に気付いた。
(…泣いて…る?)
真っ青な顔で目を潤ませているのが気になって
「あんた、大丈夫か?気分でも悪いのか?」
と、半ば強引に人1人分くらいかきわけて近づいていくと、彼女は涙でいっぱいになった目でギルベルトを見あげた。
…か、可愛い……
思わずぽかんと見惚れてしまう。
小さな顔、真っ白な肌。
涙にぬれて金色に輝く睫毛は驚くほど長くて、春の木漏れ日の中で揺れる新緑のように淡い色合いのグリーンの目は、本当にまんまるで子猫のようだ。
そして…震える小さな桜色の唇…。
いかにもお嬢様学校と言った感じの制服に包まれた身体はどこまでの華奢で頼りない。
そして…泣いている。
何故……と、言う疑問は、人ごみをかきわけてギルベルトが近づいた事で、逆に人ごみをかきわけて慌てて遠のいていく男の存在でなんとなく想像できた。
(…あいつ…もしかして、痴漢か?)
と、一応間違っていたらまずいので、すぐ目の前まで辿りついた少女に小声で確認を取ると、少女は震えながらコクコクと頷く。
そんなやりとりの間もポロポロと泣き続ける少女に、ギルベルトは
「ちょっとごめんな?上着のポケットから物出すだけだから大丈夫だからな?」
と、手を動かす事をあらかじめ伝えて、ブレザーのポケットからハンカチを出すと、
「これ…使えよ」
と、涙が止まらない少女の目元にあててやる。
そうしておいて、ギルベルトは少女を自分の腕の中に引き寄せてガードしながら、
「ちょっとすみません。通して下さい。
気分悪くなった人間いるので」
と、ドアの所に。
そしてドアを背に彼女を立たせて、自分はその両側に腕をついて若干の空間を作ってやって言った。
「ごめんな。本当は座席譲ってもらえたら良いんだけど、この状況では難しそうだからな。
でもこうやってたら変な奴はこねえから。
もう少し辛抱できるか?」
その言葉に彼女はそれでなくとも大きな目を零れ落ちそうなくらい大きく見開いて、ぽろんと涙を一雫。
それから少し俯いて、恥ずかしそうに小さな小さな声で
「…ありがとう…ございます…」
と、言った。
ずきん…と、胸のどこかが締め付けられるような、痛むような…
何かすとんと落ちたような…そんな気分。
そう…ギルベルトはあとからこの時のこの状況を知る。
つまり…恋はするモノではなく、落ちるモノ…そういうことである。
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