ギルベルト視点
恋はするモノではなく、落ちるモノ1
(今日も混んでやがるなぁ……)
朝、満員電車でギルベルトはため息をつく。
毎朝の通学時の事とは言え、この混み具合はやはり慣れる事はない。
ふと隣のホームに目を向ければ、都会方面から住宅地に向かう列車が止まっていて、その空き具合が羨ましく思えた。
学生のうちはそこまでそういう目で見られる事も少ないが、混んでいてやむを得なく隣り合った女性に手が当たったりした日には、下手すれば痴漢の冤罪をかけられかねない。
だからギルベルトはいつも鞄を肩からかけた上で、両手で一つの手すりにつかまるようにしている。
本当に…女性専用列車に文句を言う男もいるが、ギルベルトからすれば痴漢の冤罪から男を救うためにもどんどん作って欲しいと思う。
むしろ自分達男性の方を隔離してくれてもOKなくらいだ。
ギルベルトの通うこの路線は最近随分と痴漢が多いらしく、先日も従兄弟のエリザがそんな話をしていた。
が、痴漢にあって相手の腕に関節技を決めて駅員に突き出したというエリザは論外としても、安全ピンを手に突き刺しただの、ちょうど良い位置にあった固い鞄を思い切り股間にぶつけてやっただの、おいおい、過剰防衛という言葉は?とか、それ、万が一人違いだったらとか、冤罪だったとか言う場合は?とか、心配になるほど、女性陣は怖い。
よくドラマや漫画にあるように、痴漢にあって羞恥と恐怖で抵抗も出来ずに俯いて耐える…みたいな子は絶滅したのだろうか…。
それともああいうのは所詮フィクションか?
別に女性を蔑視するわけではないし、強い女性も出来る女性も嫌いではないし、友人としては好ましいとは思うモノの、恋愛的な好みと言う事でいえば、ギルベルトは守ってあげたくなるような小さくてか弱い、いわゆる昔から言われているような女の子っぽい女の子が好みだった。
それは単にギルベルトが自分の事はたいてい自分で出来るし、自分と同じような人間なら2人は要らない、むしろ自分は労力その他を提供し、相手からはメンタル的な癒しが欲しいと思うからで、それでギブアンドテイクというだけのことだ。
つまりそれがいわゆるギルベルト個人の性癖というだけで、他人に強要するつもりもない。
そういう関係を差別だと受け取るタイプは単に自分には向かない。
完全に同じ事を協力してやりたいという相手と一緒に居れば良いのだとおもう。
ということで、理想の恋人像を胸に幾星霜。
親の仕事上の付き合いで女性をエスコートする機会くらいはなくはなかったが、運命の恋人は現れないまま、彼女居ない歴を重ねて高校2年生。
告白されても告白されても断り続けるギルベルトを心配した小学校からの同級生である悪友フランシスに、ついに強引に女の子とのデートのセッティングをされてしまった。
ギルベルトに断られるのは想定の範囲内だったらしく、
『相手の子にもう言ってOKもらっちゃったからさ。
少し男が苦手な子なのよ。
そんな子にOKもらって会う前に断られたとか言ったら一生傷ひきずっちゃうと思うし、お願いっ!!』
と、断れば相手が非常に傷つくのだと言う事を前面に出すのが汚い。
フランシスの幼馴染で、名門ミッション学校の高等部1年。
中学では風紀委員長、高校では1年にして生徒会会計を務めている学年トップの成績の優等生。
そして男が苦手……
(いや、これ苦手じゃなくて、男嫌いってやつじゃね?)
と、ギルベルトは秘かに思う。
脳内に浮かぶのは銀縁眼鏡か何かのきつそうな顔立ちの美人。
正直…ギルベルトの好みからはかけ離れているのだが、どうやって断ろうか…。
はぁ~と、今日も吊革につかまって代わり映えのない窓の外の景色が流れていくのを見ながら、ギルベルトはため息をついた。
会う前より会ったあとのほうが断るのってハードル高いんじゃね?
むしろ自分の側には拒否権を与えないつもりか?
成績は良い、コミュニケーション能力だって低くはないギルベルトだが、こと恋愛に関してはそんな風に理想を胸に秘め続けて来たため経験がなく、どちらかと言うと苦手な方だ。
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