寮生はプリンセスがお好き7章_1

「アーサー、それ一口欲しいんだぞっ!」

昼食時、いつものように中庭でギルと昼食を摂っていると、フラフラとアルが近づいてきた。

そう、いつもテンションが高い彼にしては本当に珍しく、フラフラと…


「俺は良いけど…?」

と、アーサーがサンドイッチ片手にチラリとギルベルトを見あげると、ギルベルトはクスリと意味ありげな笑みを浮かべて、

「俺様も別に構わねえけど、香は知ってんのかよ?
怒るんじゃねえか?」

と言う。


香?金狼寮の寮長の?

きょとんと首をかしげるアーサーだが、どうやらこの意味がわかってないのは自分だけらしい。

言われたアルは心当たりがあるらしく、だ~っと滝の涙を流して言った。

「彼はひどいよっ!
俺に食べさせるモノ食べさせないで、ジョギングまでさせるんだぞっ!」

へ?

確かに金狼寮はプリンセス勝負からは手を引くとは公言してはいるものの、一応はお守りすべきプリンセスにそれはない。

事情はわからないが、いつになく参っている様子のアルが可哀想になって、アーサーがランチボックスを差し出そうとすると、それはフラフラと手を伸ばすアルの目の前でギルベルトの手に戻された。



「ギル~、わかってんなら止めて欲しい的な?」

はぁ~と後ろから降ってくるため息。

それに対して相手が同級生だからだろうか…ギルベルトは年相応にいつもより砕けた感じで

「そこはあれだろ?寮長としてはピシっとすげえとこ見せて決めておかねえと」
と、香にからかいの目を向けるように笑う。


「…いったい何の事?」

と、1人蚊帳の外なアーサーがとうとう口を挟むと、香がアーサーに視線を向けて羨ましげに言った。

「銀狼はすっげえ楽そうで羨ましい感じ。
うちはもう俺が筋力つけるだけじゃどうしようもない的な?」


それに対してギルベルトは

「おう。楽勝、楽勝!
今年は初っ端にフェリちゃんに引き離されても、寮長で余裕でぶっちぎれるぜ!
なにより…お姫さんをお姫さん抱っことか、うちの寮生テンションあがりそうだ」
と、力こぶを作る。

そう香に応える一方で、ギルベルトは優しくアーサーの頭を撫でながら説明をしてくれた。


「もうすぐ体育祭があるだろ?
その時の競技の目玉が毎年恒例の【寮対抗シャマシューク風スウェーデンリレー】ってやつなんだ」

「寮…対抗…シャマシューク風?」

「おう。普通のスウェーデンリレーってのは走者4人がそれぞれ100,200,300,400mを走るってやつなんだが、うちの学校のは100300は中学生、200400は高校生。
で、第1走者の100mは有無を言わさずプリンセス、第4走者の400mは絶対にカイザー。
しかもプリンセスはドレス着用で、カイザーはそのプリンセスを姫だきにして400mを走るってルールなんだ。
これが毎年ラストの競技で、点数も高い」



「…っ!大変だっ!!」

目の前で繰り広げられている香とアルのやりとりを、アーサーはそれで理解した。
そして口にしようとしていたサンドイッチを持つ手をピタリと止める。

するとギルベルトがその手からサンドイッチを取り、有無を言わさずアーサーの口元へと持って行った。


「あのな、お姫さんはすっげえ軽いからな?
それ以上痩せたら風にさらわれちまう。しっかり食えよ?
アルがダイエットさせられてんのは、香があいつをだき上げて走れないレベルだからで、俺様はお姫さん抱えてても問題なく400m全力疾走できっから」

そう、こういうことが起きるから、ぎりぎりまで知らせないつもりでいたのだ。
それでも知ってしまったものはしかたない。

とりあえず何も心配する事はないのだと言う現状を伝えると、一応そこは空気を読んだのか、それとも単なる事実なのか、

「これ、金銀狼寮のプリンセスが逆なら俺でも優勝できる自信アル的な?
下手すれば銀竜のフェリ先輩より軽いんじゃね?」

と、香が自寮のプリンセスとアーサーを見比べて言う。


そこで自分が揶揄されているということはスル~っとなかった事にできるらしいアルは、

「アーサーなら俺だって抱えて全力疾走できるんだぞ☆」
と主張して、

「あんたは一般ピープルが抱えて走れるレベルまで体重落とさねえとNGな立場なの、いい加減自覚して欲しい的な?」
と、香に釘を刺された。


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