寮生はプリンセスがお好き6章_11

少し時を遡る……

アーサーが目を開けると…そこになんだか途方にくれたような表情の端正な顔があった。

「…お姫さん…俺の事、わかるか?」
との問いに、ギル…と頷けば、泣きそうな顔で笑みを浮かべる。

「害は与えないってのはなんとなくわかってたんだけど…怖い思い、させてごめんな?」
との言葉に、アーサーはゆっくり首を振った。

あれは…確かにこの世のものではない、いわゆる幽霊と呼ばれるものだということはわかったのだが、何故だろう…危害を加えられる気はしてこなかったのだ。

アーサーに怖い思いをさせないように…そんな気遣いはギルのそれと一緒で…アーサーが“彼”の姿を認識するとほぼ同時くらいに、彼は困った顔で少し微笑んで、そしてアーサーは花の香りに包まれて意識を失った。

――起きていても不安にさせてしまうだろうから……
と薄れゆく意識の中で聞こえた声の優しさは、どこかギルが困った時のそれを思い起こさせて、なんだか笑ってしまうくらいだった。

おそらくぎりぎりで笑みを浮かべていたのだろう。
ホッとしたような声で

――おやすみ、愛しい人――
という言葉が落とされたのが、意識を失う前に最後にアーサーの耳にした音である。


「…すごく…優しい幽霊だった気がする…」
そう素直な感想を述べると、ギルベルトは一瞬目を丸くして、それからアーサーをぎゅっと抱きしめた。

そして額に降ってくる口づけ。

「奥さんをすげえ愛してた男の幽霊らしい。
きっかけが半ば義務の政略結婚でも、その奥さんが子を産めなくなっても…そいつは本当に奥さんを愛してて…その最愛の相手を守れなかった事を後悔し続けてたから、俺様がアルトを守りたいって気持ちに同調して、どうやら守ろうとしてくれたみてえだ」

そうして

――守るからな?
と、合わされる視線。

ギルベルトのルビーのように綺麗な紅い目がアーサーの目を覗き込んでくる。

「…学校も寮も関係ねえ。
俺様が大学に進んでお姫さんは高校生になって名目上はプリンセスじゃなくなったって、社会人になったって、ずっと…俺様が守るべきプリンセスはお姫さんだけだし、俺様はお姫さんを守る一振りの剣だからな」

それは自分に対する愛情を信じる事が出来ないアーサーですら、否定をできないくらい、あまりに真摯に響いた。

その視線を受け止めきれずに目を伏せると、今度は瞼に口づけが降って来て、顔が離れて行く。
そして小さく笑う気配。

――今はまだ…ここまでな。
と言う呟きが聞こえた気がしたのは、気のせいだろうか…

それでも…ドキドキと高鳴る心臓の音を聞きながら、アーサーはギルベルトに抱きあげられて、見知らぬ古城の部屋をあとにしたのだった。



 Before <<<      >>> Next (6月29日0時公開)




0 件のコメント :

コメントを投稿