だってギルベルトは本当に完璧だ。
本来なら後輩の自分が作るべきであろう食事も毎日美味しいランチボックスを作ってくれるし、寮長として様々な行事に必要な事を全部あますことなく把握して準備を進めてくれている。
それでいて、まだ未熟なアーサーに負担をかけないようにと、伝える情報と伝えずに自分だけで気をつける情報を分けてくれているようだ。
さきほどの体育祭の話もそうなのだろう。
アルがああ言った事でアーサーが知る事がなければ、ギル自身はアーサーの分まで事前に色々準備もしてそれようの鍛錬もこなしながら、アーサーにはぎりぎりまで伝えずにいたに違いない。
寮全体を見ながら、アーサー個人についても細やかにフォローしてくれる優しさと度量。
そんな風に能力も完璧で性格も素晴らしいのに、容姿まで非の打ちどころがないレベルで整っているのだ。
そんなギルベルトを自分が毎昼独占しているのは、本当に申し訳ない。
寮生に…全校生徒に…世間に対して申し訳ない!!
…と、アーサーは居たたまれない気分で思う。
あまりの居たたまれなさに俯いていると、ギルベルトはさきほどの諸々がまだ続いていると誤解したらしい。
いつもアーサーが落ち込んだり不安に思ったりしているとそうするように、ぎゅうっと一度アーサーをだきしめて優しく背中をぽんぽんと叩き、それから少し身体を離して顔を覗き込んで綺麗な笑みを浮かべた。
そして、
「お姫さんはなんにも心配する事はないからな。
たぶん…第一走者の中ではフェリちゃんがぶっちぎり早えと思うけど、走る距離が100mだから、差がついてもたいしたことはねえ。
第一走者とアンカーはお姫さんと俺様って決まってるわけなんだけどな、第二走者はとにかく、第三走者はルッツだから。
100mまるまる差がついてたとしたって、ルッツが300の間に半分はリカバリすると思うし、アンカーは圧倒的に軽いのはお姫さんとフェリちゃんだが、銀竜の寮長はどっちかっつ~と敏捷性で寮長になったタイプで普通に走ればまあ早いが、寮長ん中では筋力も脚力も持久力もある方じゃないからな。
フェリちゃん抱えると一気にスピードが落ちるから、俺らの敵じゃねえし?」
そう言いながらもギルは手が止まってしまったアーサーの口に食べ物を放り込んでいく。
まあ嘘ではないのだろう。
アーサーの口に食べ物を運ぶ腕には見ただけでそれと分かるレベルで筋肉がついているし、そもそもギルは何かあるとしょっちゅうアーサーをだき上げて運んだりする。
その時も全然危なげなく、軽々と言った感じだ。
それでも不安げな様子のアーサーに、ギルは良い事を思いついたとばかり提案する。
「そうだ!もし何かしてえって言うなら、お姫さん、明日から当日まで少しばかり早起きして、俺様の走り込みにつきあってくれるか?」
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