そのギルの申し出はアーサーからするとすごい快挙だ!
なにしろ今までは、一度、毎朝ランニングしているギルと一緒に走りたいと言って倒れて以来、朝のランニングについていく事は却下されているのだ。
それがとうとうギルの許可が出たのである!
「じゃ、明日の朝からな?
朝は4時起きになるから、そうだな…今日は9時には就寝な?」
と言う。
いつもより2時間も早いが、起きるのも早いから仕方ない。
というか、一緒に走り込みが出来るなら全然構わない。
その日は学校が終わって寮に戻ると、早めに宿題と予習復習を済ませて、風呂にも入っておく。
こうして寝る準備は万端。
ギルベルトは元々そこまで長い睡眠時間を必要としない人間らしく、普段から4時起きだということなので、いつもは一緒に寝るのだが今日はアーサーの眠りを妨げないように寝室の端の方でノートPCで何か作業をしている。
チラリと視線を向けると、PCのディスプレイを真剣な様子で追っていた綺麗な紅い目が、視線に気づいてこちらに向けられた。
「悪い、お姫さん。眩しかったか?」
途端に柔らかい表情になる端正な顔。
整い過ぎてキツイ印象を与える顔立ちなので、こうやって優しい笑みを浮かべられるとなんだか特別感があって、ドキドキしてしまう。
同性なのに…と自分でも思うし、ギルベルトだってそんなに変に意識をしたりしていないのだろうに、本当にそんな風に思う自分はどうかしている…と、そんな内心を否定するつもりでアーサーが首を横に振ると、ギルベルトは少し考え込んでいたが、やがてパタンとノートPCを閉じてそれをサイドテーブルに置き、
「今日は俺様もたまには早く寝るかな」
と、ベッドに潜り込んでくる。
そしていつものように腕の中にアーサーを抱え込むと
「…大丈夫…。
俺様が全部ちゃんとやるから、お姫さんは何も気にしないでいい…。
ただ、そこで幸せに笑っていてくれればいいからな?
それが唯一、俺様を始めとする全銀狼寮生の願いだ…」
と、指先で優しくアーサーの髪を梳きながら、おやすみ、と、その瞼に口づけを落とした。
頼もしくも温かい腕の中…やがて眠りを促すように優しく背をぽんぽんと一定のリズムで叩かれると、緊張していたはずが安心感に包まれ始め、気がつけばアーサーの瞼は閉じたまま開かなくなっている。
ここにいれば何があっても大丈夫…そんな欠片も心配のない環境…そんな中に身を置けるのはなんて幸せな事なのだろうか……
そんな事を感じながら眠りに落ちたせいだろうか…
眠っているアーサーの顔には幸せそうな笑みが浮かんでいた。
──こうやってお姫さんをずっと幸せそうな笑顔で居させてやれる事が、俺様のモチベーションなんだぜ?
その幸せそうな寝顔に、幸せそうな寮長の声が降って来ていた事は、深い眠りの中にいるアーサーは知らない…。
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