寮生はプリンセスがお好き7章_4

(…これ…何かが違うっ!!)

翌朝…ギルベルトの走り込みコースでギルベルトにだきあげられた状態でアーサーは思う。

──走り込みにつきあってくれ…

とは言われたが、考えてみれば“一緒に走り込みをしよう”とは確かに言われていなかった気はする。

だからと言って何故走り込みをするギルベルトに横だきにかかえられている??


意義を申立てようにも、口を開けば舌を噛みそうなので大人しく走るギルベルトの首に手を回し、黙ってだきかかえられたまま30分。

そう、ギルベルトはなんとアーサーを抱えたまま30分も淡々と走り続けたのだ。

しかも隣で並走していたルートもそれなりに汗をかいているところをみると、決してゆっくりではない。

どれだけ体力があるのだ…と、心底感心すると同時に、これと一緒に走るつもりでいた自分の身の程知らずさにアーサーは青くなった。



「やっぱり体重のかけられ方とか、単なる重石を持って走るのとだいぶ違うな。
まあ…テンションも違うと言うか…ずた袋よりもお姫さん本人だと100倍楽しい」

ギルベルト自身も汗一つかかず…というわけではないのだが、走り終えてクールダウンしながら笑顔でそんな発言をしているところをみると、まだまだ体力は残っていそうだ。

さすがに差がついていても自分のところで逆転できると豪語するだけのことはある。


こうしてある程度の距離の走り込みを終了すると、さすがにそれだけでは…と思ったのか、ギルベルトは一応、短距離とは言えリレーを走るアーサーのフォームを見て、色々注意をしてくれた。

いわく…

「短距離はな、フェリちゃんがあんなナリして、ありえねえほど早いんだ。
去年は1年生なのに23年ぶっちぎって100mだってのにかなりの差をつけてトップでバトン渡しててな。
ま、昨日も言った通り、お姫さんは遅かろうと速かろうと可愛ければ良いんだけどな。
速い方がお姫さん自身が楽しいだろうし、少しタイムあげてみるか~」

とのことだ。



そういうわけで、その日から毎日、朝は4時起き。
30分はギルベルトに抱えられてギルベルトが走るのにつきあって、その後、一緒に短距離の練習。

驚いた事にギルベルトは長距離が強くて腕力体力もあるだけでなく、短距離も速くて、アーサーはクラスではかなり早い方だった短距離すら敵わなかったのだが、それでも毎日教えられているうちに、自己タイムもかなり縮まって来た気がする。

その他には肌や髪の手入れを普段より丁寧にされるようになった。

それはプリンセスが綺麗な方が寮生の士気がよりあがるし、タイム以外で評価される種目も点数が高くなるという、副寮長ならではの理由からだ。

さらに学校にいる間は、実は運動会の影の主役と言われているプリンセスに妨害が及ばないようにと、普段のようにルートだけではなく、1年の銀狼寮の寮生数名が常に付くなど、アーサーに対するガードが固くなった。

他寮の寮生を近づけないようなそんな状況に一番不満の声をあげそうなアルは、先日のやりとりのように、只今絶賛ダイエットさせられ中なのだろう。

食べるのが何より好きで食べないと元気が出ないらしい彼らしく、日々ぐったりしていて、それどころではないらしい。

運動会が終わるまでに倒れないかとアーサー的には心配なのだが、それこそ他寮の人間が口を出すことではないし、自分自身がぐるりと護衛に囲まれているため、こっそり差し入れをする事もできず、心配しながらも見守るしかない。

そしてとうとう中1のアーサーにとっては初めての本格的な寮対抗行事、体育祭を翌日に迎える事になったのである。



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