翌日に体育祭を控えた夕方。
学校から戻ると透かしの入った綺麗な白い箱がリビングに…
「ギル…これは?」
と、機嫌よさげにアーサーの反応を窺っているギルに訊ねてみると、
「明日の銀狼寮のプリンセスの衣装。
開けてみ?」
と、アーサーを箱の前に促した。
こうしておそるおそる蓋を開けると、中には真っ白なレースとフリル、リボンが詰まっている。
見た瞬間すでに可愛らしいそれを手にとって広げてみると、それはふわふわと愛らしいウェディングドレスだ。
ご丁寧にマリアベールまで付いていた。
本人はひた隠しにしているが可愛いモノが大好きなアーサーはあげそうになった歓声を慌てて飲み込むが、そんなアーサーに気づいてか気づかないでか、ギルベルトはどこか満足そうに
「すっげえ綺麗だろ?
衣装は半月ほど前に、これも恒例の寮長によるプリンセスの衣装争奪試合っつ~のがあって、今年はテニス勝負だったんだけどな。
お姫さんに一番似合う衣装をピックアップすんのに、それに優勝して分捕って来たんだ」
と笑いながらそれをアーサーの手から取って、アーサーにあてて見せる。
「あ~、やっぱすっげえ似合う!可愛い!」
すごく嬉しそうにそう言うギルベルトに、苦労してゲットしてきてくれただけに、謙遜でも『そんなことはない』と言うのは悪い気がして、すごくおこがましいし恥ずかしい気はしたものの、
「…ありがとう……」
と言うと、ギルベルトは手を胸元に添えて、
「どういたしまして。
お気に召していただけたならなにより」
と、恭しく礼をした。
そんな仕草も様になっていて、しかも武道だけでなくテニスまで強いなんて本当にギルは寮長に相応しい完璧さで、ますます自分の至らなさが申し訳なくなってしまう。
それでもギルはアーサーが本当に素敵なプリンセスであるように、
「こんな可憐なプリンセスを頂けて銀狼寮の寮生はマジ幸せだなっ!
そんなかでもラストの一番盛り上がる競技でこんな可愛い格好した花嫁を抱えて走れる俺様が一番の幸せモンだぜ~!」
などと言ってくれるので、とにかくもう気恥かしくて、ドレスで顔を覆うと、それさえも、そんなはにかみ屋なところが可愛いと言われてしまって、アーサーはもうどうしていいのかわからなくなって、ただただ赤くなった。
可愛い…と言うのはリップサービスだろうとは思うが、とにかくギルベルトのような完璧な寮長を頂いた銀狼寮の副寮長としては、せめてギルベルトを始めとする寮生たちの足をひっぱらないように、頑張らなければならない。
秘かに固めたアーサーのそんな決意に気付いたのだろうか。
ギルベルトはアーサーをだき寄せて、
「お姫さんはとにかく無理なく怪我さえしないでくれれば良いからな?
大切な大切なお姫さんをきちんと守る事…それが寮生の一番の目的なんだからな?
勝ち負けに関しては、お姫さんは可愛さでは全校ぶっちぎりだから、あとの勝負事は俺ら寮生に任せておいてくれ」
と、額に口づけて、そう言った。
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