寮生はプリンセスがお好き7章_6

天気は晴天。
いよいよ体育祭だ。

10時に開会式で一般生徒の集合は9時半なわけだが、アーサーが朝、慣れないドレスの裾を気にしながらギルベルトにエスコートされつつ、寮生の共有スペースであるホールに降りて行くと、いつもそこに集っている寮生達がいない。

そう、いつもは絶対にいるルートですら居ない。


「………?みんなは?」

と、ギルベルトを見あげると、彼は当たり前のように言った。

「ああ、体育祭の時は寮生総出でテントの設営だ」

「え?!寮生総出だったら、俺も行かないとダメだったんじゃ?!」

と、慌ててドレスを少したくしあげて走ろうとするアーサーをギルベルトはふわりとだき上げる事で阻止して苦笑する。

「おいおい、お姫さんが行ったら意味ねえだろ」
と、言われてアーサーがきょとんと首をかしげると、ギルベルトはそのままの体勢でゆっくりと歩き始めた。

「これもシャマシュークの体育祭の伝統なんだけどな、各寮ごとに応援スペースがあるんだが、そこにテントを用意すんだよ。
もちろん、メインの目的はプリンセスのためな?
手配や企画はだいたい寮長周りで決めて、毎年大がかりな物を用意するから設営はプリンセスをエスコートする寮長とプリンセス以外の寮生全員が基本。
まあ、あれだ。
カイザーになるには色々身体的条件があるのもあって、カイザーはそれなりの家の子息が多いから、手配はカイザーがって事になってんだけど、去年までは銀狼の寮長は珍しく外部生だったから、俺様自らが準備してたりしたんだけどな」

だから手配も仕切りも慣れたもんだし大丈夫。ゆっくり行こうぜ?
と、ギルはゆったりとした歩調で歩く。


もちろん大丈夫であろうとなかろうと、だきかかえられている時点でアーサーに拒否権などなく、ゆっくりとしたペースで連れて行かれ…


そうして辿りついたグランド。


違うっ!これ俺が知っているテントとは違うっ!!

叫びださなかった自分を褒めて欲しい…と、アーサーは思った。


だって、そこには、これは何?ここはどこ?何が始まるんだ?!

と叫びだしたくなるような光景が広がっている。



森の小道を抜けたところにある、競技場より遥かに広いスペース。

入って左手が金寮らしい。
一番手前が1年の狼で…そこにひときわ目を引くのは真っ赤な建物…。


「お~!香の…っつ~より、王の手配か。
さすがに派手だな~」

みるからに中華風といった感じの赤い柱に赤いテント。
屋根は薄緑でところどころに金の飾りが垂れ下がっている。

そして…大きい。
とにかく大きい。
1学年100名の半数で50名が2学年で100人いる寮生が全員余裕を持って入れる。

20席強かける2列、40席強が左右に配置され、綺麗に飾られた中央には少し高い段があり、そこには他よりも大きく立派な座席が二つ。
言うまでもなく、寮長カイザーと副寮長プリンセスの席だ。

そこには互いに不機嫌そうな金狼寮の香とアルのコンビ。
香が若干機嫌が悪く見えるのは、アルの体格だろう。

香がいくら摂生させようとしていても、学校にいる間は昼休みくらいしか中等部の校舎に来る時間はなく、周りの金狼寮の学生にはアルを止めるだけの力はないため、ダイエットも結局ほぼ功を奏することはなく、体重はおそらく元のままだ。

そしてそのアルの不機嫌の理由は…おそらくその少々良すぎる身体で身にまとったチャイナドレスのせいだろうか…。

ご丁寧に化粧まで。
ただ、アルは体格は良いが、顔立ちは年相応に幼さも残る可愛らしいと全く言う事ができないというわけでもない顔なので、首から上だけ見ればそれなりに可愛らしい。

だが、体育祭の最後のリレーのことを正直…香は若干小柄でアルは大柄なので、本当に持ちあがるんだろうか…と、正直、他人ごとながら心配になった。


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