それから数年後、並み居る求婚者に向かって
「私は国家と結婚するわっ!
だから夫は国家。人間の夫は要らないの!」
と、高らかに宣言をした女王は、その言葉通り生涯夫を持たず、後継者には弟の子の1人を指名した。
そうしてその宣言からさらに数十年後、本当に突然引退を宣言して、甥にその位を譲る。
いわく…
「私を守る剣が折れて盾が割れちゃったから…。
もっと早く…折れて割れる前に守る必要のない身になって大切に手入れをするべきだったのに…」
との言葉は、国中の…とはいかないまでも、王城の人間はほぼ皆理解した。
それは常に女王の傍らに老体にも関わらず一日も欠かさず剣をきっちり持って立ち続けた老将軍の葬儀の直後の呟きであったからだ。
そして
「う~ん…それはあいつが可哀想…かな?
あいつは根っからの剣であり盾だからね。
飾り物として仕舞いこまれるなら、戦場に散りたいタイプよ?
だから…ボロボロになって折れるまで使われて、最期に良い剣、良い盾だったって惜しまれて、幸せな人生だったと思うわ」
と、その呟きを拾ってそう言った、誰よりも彼をよく知るもう一人の育ての親の言葉に、どれだけ大変な時でも毅然と前を見続けた女王は、初めて子どもに戻ったように号泣をしたのである。
もう自分が立派な女王としてふるまわなくても、困るものなど誰もいないのだとばかりに…
そうしてさらに年は流れ…在位中の存在感が嘘のように静かに静かに元女王は年を重ね、死ぬ前に一つだけ、人生の中で唯一自分の我儘を口にして、その通りに埋葬された。
太陽の国の基盤を確固とした偉大な女王の墓は…王家の墓地ではなく、そこからはるか北の大地、バイルシュミット伯の墓地にある。
── 完 ──
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