ちょっと顔見せて褒めてやるくらいしたっていいでしょうに」
パタン…とドアが閉まると、エリザはチラリと棚とカーテンの影に視線を向けた。
そこには、女王が探しまわっていた男がハンカチを目にあてながら立っている。
母親に似て美人になって…。
母親のたおやかさはねえけど、気品はあいつの方があるよなっ!」
なにしろ3歳で引き取って以来12年間、国の仕事もしながら育児書を片手に大切に大切に育ててきたのだ。
それが15歳、年頃の綺麗な姫君に育った姿を見れば、感慨もひとしおである。
「そう思うなら、なんで言ってやんないのよっ」
と、毎度毎度その間に立たされるエリザが呆れ顔で言うと、ギルベルトは少し困ったような笑みを浮かべた。
「…あいつは女王だからな?
3歳で親がほぼ後宮に引き籠って、俺様しか頼る相手がいねえ状況で育ってっから、勘違いしちまってるっていうか……。
ちゃんとそれなりの相手を見つけて結婚するとかになって、育ての親として慈しむのは良いけどよ、それまでは年頃だしちと距離おかねえとな」
ちゃんとアリスの気持ちも知っていてそれなのが、エリザにはわからない。
「あんた、アリス大事じゃないの?」
と聞くと、
「大事に決まってんだろっ!俺様にとって世界で一番唯一大事なお姫さんだぜ?」
と、返ってくるのだから余計にである。
「じゃ、なんで?」
とさらに聞けば、
「俺様は臣下で護衛で育ての親だ。
そこを踏み外したらダメだろ。
それを超えたらもう騎士じゃねえ」
と、実に気真面目な顔で返してくる幼馴染に、エリザは頭を抱えた。
「そんな事言ってて…あの子が行き遅れたらどうすんのよ」
と、それでもなお言い募ると、このふざけているようで根は非常にまじめな堅物の幼馴染は微塵も迷うことなく断言するのだ。
「結婚しようと独り身だろうと、赤ん坊だろうとババアになろうと、あの自分の最期と思ってこの城に戻って産まれたてのあいつをだき上げた時から、年齢差の寿命から言っても俺様の生涯の主はあいつだけだし、俺様が死ぬまでは1人で寂しい思いなんかさせやしねえよ」
と。
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