「エリザっ!ギルは?!」
「あ~…たぶん市中に見廻りに?
いくら将軍を兼ねてるからって、軍務大臣自ら行く必要はないって毎回言ってるんだけど…」
もちろんいつもこんな格好をしているわけではない。
今日は彼女の15歳の誕生日だ。
これからその祝いの式典が行われるので、このようにきらびやかに飾り立てているというわけだ。
12年前のちょうどこの日、父王は国王の正妃という権力をもつ事を望まぬ母と共に静かに暮らしたいと言う事で、その座を娘のアリスへと譲って隠居した。
森の民…という緑の国の奥深くに住む古い血族の血を引く実母は、多くの森の民がそうであるように男性の身体で産まれても子を生む事ができるらしい。
そんな話も聞いたが、まあそんな事はどうでも良いのだ。
だって自分の親と恋仲になるわけではないのだから、親の性別などアリスにとってはどうでもよろしい。
産まれる子はほとんどが男性体で、女性体の子が産まれるのは数百年に一度であるとか、それを裏付けるように、その後に父母の間に産まれた兄弟は皆男だとかもどうでも良い。
その非常に稀な確率で産まれる女性体の子は自然を操り大きな力を持つとか、そのために男児が生まれても自分が二つの国を統べる女王となっているということすらどうでも良いのである。
重要なのは、自分がまだ赤ん坊のころ、女王として守り育てるために手元に引き取った将軍、ギルベルト・バイルシュミットが、自分の事を女性として見ていない、それがアリスにとっての唯一にして最重要な問題だ。
普段はギルベルトについていくために長い髪を邪魔にならないようにまとめて、動きやすい服装で城中、下手をすると国中を駆けまわっている。
それが悪いのかもしれないが、追わずにはいられない。
だからこそ…である。
年に数回、正装をする時には、着飾った自分を見て欲しい。
ギルベルトだけに見せるために頑張っているのだ。
なのに……
「陛下、そろそろ式典のお時間でございます」
と呼びに来る女官。
「…わかってるわ……」
目的を果たせずにしょぼんと肩を落として、女官に連れられて、今回もアリスは広間へと向かった。
自分がきちんと女王をしていないと、きっと護衛兼教育係だったギルベルトが非難されるであろうから……
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