普段は他人の気持ちなどあまり解さないアントーニョではあるが、さすがに申し訳ない気になって言葉に詰まると、ギルベルトはそんな内心も察して小さく首を横に振った。
確かにお前のメンタルっつ~のもあるけど、一番は国益だ。
子どもが出来た時点で、お姫さんはこの太陽の国にとって森の国を合法的に手に入れるのに絶対に必要な存在だ。
正統な後継者であるお姫さんとその子がこっちにあれば、森の国の多数の国民や軍隊はこちらにつくか、悪くても分裂してくれる。
グラッド公が王家につくっつ~ことは、それを排除する前提だからな。
そうすっと、小国と言えど、絶妙な位置にある国が、本気でこの国を潰すつもりで雲に加勢する事になるから、すげえきつくなる。
だから排しておかねえとまずい。
それでも…グラッド公を排するのに失敗して王家対国一番の貴族って構図の内乱になれば、それこそ雲の思うつぼだ。
あっという間に攻め滅ぼされる。
だから…言っただろ?
俺様の一番は国益だ。
お前がどんだけ嫌がろうと、国益に沿わなければお姫さんは排除する。
もちろん、その次にはお前の事情を優先するけど…」
何度も自分の行動は国益のためだと繰り返すが、それでもアントーニョの気持ちを汲まなければ、ギルベルトはもう少し楽に生きられると思う。
「…堪忍な。
雲との戦いは親分も出るさかい…」
満身創痍の旧友に本当に泣きそうになる。
普通の顔をしているが、おそらく服の下はまだ縫ったまま抜糸もしていない傷を包帯できつくしばっているのだろう。
今報告に来たと言う事は、近日中に今度は国外での戦いに赴くと言う事だ。
もちろんそれでもギルベルトは陣頭指揮をとるのだろう。
できればアーサーの側を離れたくない。
というか、何があっても離れないつもりではあったのだが、ギルベルトと並んで誰よりも信用できて、腕っ節のほうも信頼できるエリザがこうしてついていてくれるなら…と思って言うと、ギルベルトはそれを制した。
「言っただろ。
お姫さんは今回の戦いのキモだ。
無事かどうかで森の攻略の楽さが変わるし、それで戦局が分かれる可能性もある。
だから逆にエリザをいったん雲の抑えに使って、俺様がお姫さんの存在をアピールしつつ速攻で森を攻略。
森が落ちたらエリザと合流して一気に雲を叩くから、お前はここでお姫さんを死守。
跡取り様を絶対に無事に出産させろ」
ということで、チェンジだ。
エリザを呼んでくれ。
と言われれば、それ以上は言えない。
いや、言えるのかもしれないが、わずかばかりのアーサーを他に任せて戦場に行くのも仕方ないと言う気持ちが、ギルベルトの言葉で霧散してしまった。
「ギルちゃん、死なんといてな」
「おう!」
「自分ほど遠慮せんと使いやすい男、他におれへんから」
「理由はそれかよっ!!」
そんな軽口で旧友を送りだす。
綺麗な言葉に覚悟を決めるより、薄情な幼馴染に文句を言うため戻って来てくれれば良いと思いながら…
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