SideアントーニョⅠ
「俺様は第一に国を守る騎士で…第二にお前の幼馴染で親友だ。
確かに国のためにお前の人生犠牲にしてるけど…お前にだけ犠牲にさせるつもりはねえ。
俺様の人生であがなえるならあがなってやるから。
お前はお前の人生を第一に優先してもいいけど、もし俺様が志半ばで倒れたら、余裕があったら国も救ってやってくれ」
──国内の問題は完全に片付いた…
そう報告に来たギルベルトはひどい顔色だった。
仕事となるといつもいつも冷静で感情を表に出すタイプでもなく淡々とこなす男だったが、今回はげっそりとやつれ、上に立つ以上最後まで指揮を執れるように無茶はしない、それが信条の彼にしては珍しく、大きな怪我を負ったらしい。
鼻の良いアントーニョだからこそわかる程度に、血の匂いがする。
「結構大きな怪我…しとるんちゃう?」
隠すからにはそう言う事なのだろうと聞いてみると、何故気付いた?とばかりに一瞬目を丸くして、しかしながら、この幼馴染の鼻と勘の良さを思い出したのだろう。
ギルベルトは苦笑して言った。
「あ~、今回はちとヘビーな戦いだったからな。
グラッド公の拘束とグラッド家の残党の討伐。
敵の敵意はウルニアに向けられてたから、まあ、なんとかなったけどな。
さすがの俺様でも自前の兵だけで国内一の勢力を誇る貴族の一族を完全に一掃すんのは手間取っちまった」
「はああ???」
アントーニョにしてみれば全てが寝耳に水の話である。
何故そうなっている?
何がどうなっている?
聞きたい事はやまほどある。
そんなアントーニョの驚きは当然予測の範囲内なのだろう。
ギルベルトはチラリと室内に視線を向けて、どうやら自分がいない間にこちらに詰めていてくれたらしいもう一人の幼馴染の姿を確認すると、
「正妃様はエリザに任せて、ちょっと説明させてもらっていいか?」
と、するりと室内へと足を踏み入れた。
「ちょ…なんで親分に言わんかったんっ?!!!」
──自分の娘に未来の王を産ませたい太陽の国の貴族達からは猛反発をくらうだろうが、それは俺様が絶対にどうにかする。
そう言って出て行ったギルベルトは、アントーニョを巻き込まないために文字通り自分だけでなんとかしようとしたらしい。
国内一の勢力、軍事力を誇るグラッド一族相手に、なんと国の兵は一兵たりとも動かさず、本当にわずかなバイルシュミット家の私兵だけで行動したとのこと。
いくら軍略の天才と謳われるギルベルト・バイルシュミット将軍と言えど、戦力差は正面切ってやりあえば下手すれば100倍だ。
無茶にもほどがある。
そんな事情を知ってアントーニョは思わず叫んだ。
「親分かて、そこまで無茶せえとは言うてへんで?!
国の兵動かせばええやんっ!!
それで負けたかて、現国王を殺したりできひんし、ちょお立場弱くなる程度やでっ?!」
そう、自分や国が関わっていたら命までは取られないが、バイルシュミット単体でやって負けたら本当に反逆者として本人の処刑はもちろん、家が取り潰される。
そこまでの覚悟の相手に自分は随分とひどい事を言ったように思う。
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