ふらりと始まった関係で、一気に距離が近くなったため、離れる時も意外にあっさりしているのかも…と思ってさえいた。
だからプロイセンが亡国となって国策で揉める事ももうないだろうというのもあり、そろそろと思っていたところにちょうどいい理由も出来て、こうして再度近づいて一緒に暮らし始める事になって、もう21世紀にもなっているのに、未だにプロイセンが消えた恋人について心を痛めているなどとは思ってもいなくて、正直非常に驚きを隠せない。
あんなに簡単に始まった関係だったのに?と思っていたのだが、プロイセンにしてみれば実は思考時間こそ短かったが、熟考の末の決断だったと知って、本当に申し訳なく思った。
本当に猛省するところである。
彼、プロイセンは恋人としては極めて誠実だ。
それはわかった。
だからこそ…とイギリスは思う。
自分が“彼女”だった事は絶対にプロイセンに知られてはならない。
自分が誠実であるなら、おそらく相手にも誠実を求めるに違いない。
それが10年近く騙して一緒に暮らしていて、あまつさえそれを今まで素知らぬふりでこうして籍を入れたとなれば、よほど寛大な相手でも腹も立つだろう。
絶対に絶対に絶対に嫌われたくはない。
今が優しくて幸せなだけに、それを永遠に失くす事だけは避けたい。
もしもバレたら……そう思うと怖くなって、置いて行かれないように捨てて行かれないようにと、くっつきたくなる。
今日も仕事から帰って、プロイセンが用意しておいてくれた簡単なつまみを食べながら、キッチンに立つ後ろ姿を見ているうちにそんな風に不安になってきて、鼻歌交じりにフライパンを揺する背中にぎゅうっと張り付いてみると、
「なんだ?そんなに腹減ってるのか?
もうちょい待っててくれ」
と、笑いながら振り返ったプロイセンは、そこで泣きそうなイギリスに気づいて少し笑みの質を変えた。
「どうした?アルト。
なにかあったのか?
話したければ聞くし、話したくないならそれでもいいけどな。
一つだけ言っておく。
お前には護る事にかけては世界で一番の騎士様がついてるからな?
何も不安に思う事はないぜ?
安心しろ、大丈夫だ」
そう優しく笑って頭を撫でる武骨な手。
よもやその不安が自分に起因しているなんて思いもしないのだろう。
一生自分の胸にしまっておく秘密だ。
だから…不安はきっと一生消えない。
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