どうやら誰に会いに来たわけでもなく、単に自分をここに連れてくるのが目的だったのか…と、そこでアーサーは理解する。
そしてアントーニョがドアを開けてくれた車の助手席に乗り込みながら、ようやく思考力を取り戻したアーサーは、ふと思い出した。
もしかして…あれか…アーサーの初めてのキスを当たり前に挨拶感覚でしてしまったのを気にして、こんなシチュエーションを作ってくれたのか……。
うあぁああ~~~!!!
と、今更ながら羞恥心が襲ってきて、アーサーは真っ赤になった。
さすがアイドル。
もう何もかもがキラキラしい。
こんなキラキラしい中に本当に自分も入っていけるのか。
数年後…自分もキラキラしい存在になっているんだろうか……。
再度サングラスをかけて車を走らせるアントーニョの横顔をちらりと見て一瞬そんな事を思うが、すぐ無理だな…と小さく苦笑してうつむく。
そして視界に入る薔薇の花。
実は可愛いモノ綺麗なモノが大好きなのだが、アーサーがいた一般の世界だと男がそんなものを…と、笑われそうなこれも、しかしこの世界にいれば当たり前に好きでいられるのか…と、それだけは嬉しくて、少しそれを顔に近づけて思い切り花の香りを満喫すると、なんだか幸せな気持ちがこみ上げてきて、アーサーは小さく微笑んだ。
……のをちらりとサングラスごしに眺めるアントーニョ。
ああ…純粋無垢ってのはこういうのを言うんやろうなぁ…。
子ども時代から芸能界にいるアントーニョは、皆が騒ぐ自分達が、アイドル…偶像の名の通り、他者が見たい姿を演じているにすぎない虚像であることをよく知っている。
正統派イケメンと言われているギルベルトが残念な性格であること…は、まあ、一般にも知られているので置いておいて、オシャレで優雅な貴公子と名高いフランシスが実はただの変態であることも、面倒見が良く爽やかで明るい親分と言われている自分が、実は好き嫌いは3人の中で一番激しく、執着心の強い嫉妬深い男であることも、全部全部知っているのだ。
自分が作られた偶像に過ぎないから、本当に綺麗なモノに惹かれるのだと思う。
この子が女の子じゃなくて良かった。
そうしたら、こんな形で留めておくなんて手段は使えなかった。
こんな綺麗で愛らしい子を表に出したらきっと全国の男が群がってくるだろう。
ファンという名の妄想者達。
妄想の中ですらこの子を他の男に汚されるなんて事を想像するだけできっと気が狂いそうになるに違いない。
それを考えると一緒に売り出すなんて事は出来ないし、じゃあそういう形にしないとなると、手元に留めておく手段がない。
もちろん一般の他の男に手を出されるなんてもっての他であるし、そうすると…もう非合法に拉致監禁か、強引にでも既成事実を作ってしまって、16歳になるのを待って結婚に持ち込むか…どちらにしろ穏やかに優しく全ての事を進めるなんてできそうにない。
男だからこそこうして一緒に売り出して、常に一緒に行動するなんて事ができるのだ。
こうして自分は天使を囲い込む。
常に一緒にいて手を伸ばそうなんてする輩は全力で排除する。
もしこの子が純粋無垢でなくなる時が来るとしたら、それは他の誰でもない自分自身の手によって以外は許さない。
そして…この位置ならそれが可能なのだ。
そんな事を考えながら、本当はこのまま遠くへ連れ去ってしまいたいと思う衝動を無理やり抑えこんで、アントーニョは今日の午前中の雑誌の撮影の現場へとハンドルを向けるのだった。
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