スタジオの前はすでにギルベルトとフランシスがスタジオ入りしているだけに、すごい数の出待ち、すごい数の人だかりだ。
一応裏口から警備に誘導されて入ったのだが、アントーニョに気づくと、悪友のファンが殺到する。
と、もうバレていて意味がないので、片手でサングラスを外して苦笑するアントーニョ。
ほいっ、と、その外したサングラスをアーサーにかける…が、大きすぎてずるっとズレたのを見て、ハハッと笑った。
アントーニョは慣れているのだろうが、自分はひどく場違いな気がする。
警備員越しにオシャレをした女の子の集団に囲まれ、何故か彼女達に注目され、ヒソヒソと何か言われているようで、アーサーはひどく居たたまれない気分になった。
――俺…すごく場違いだよな……
元々ファッションに通じているわけでもなく、どちらかと言えば流行にも疎い。
今日はアントーニョが選んでくれたので、そこそこの格好をしているのだとは思うが、いまどきのオシャレな女の子達になんだか気後れする。
そんな中、押し合いへし合いしていたのだろう、一人の女の子が人混みの中で転んだようだ。
前日雨が降っていたためにぬかるんだ中に膝をついてしまったのか、泥水が飛んで、わずかに周りから人が引く。
――あ……
落ち着いたデザインのアイボリーのコートが泥の色に染まって、大きなメガネの少女が呆然としている。
「…大丈夫?レディ?」
思わず駆け寄ってその手を取って立ち上がるのを助けてやれば、メガネの向こうで潤んだすみれ色の瞳が揺れた。
「これ…使って」
とハンカチを差し出すと少女は
「いえ…せっかくの綺麗なハンカチが汚れちゃいますから」
と、フルフルと首を振る。
ふわふわとした淡い金色の髪が可愛いなと思いながら、アーサーがその雪のように真っ白なふっくらした頬にはねた泥をそっとハンカチで拭って
「もう汚れたから大丈夫。使って」
と、それを少女の手に握らせて微笑むと、少女の真っ白な頬が真っ赤に染まった。
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