どこに行くんだ?となんとなく聞き辛くて、緊張したまま膝の上で握りしめた手元をただ見つめる。
そうしているうちに車が一件のシャッターの閉まった店舗の前で止まった。
そこでアントーニョが携帯をまたかけると、横のドアが開いて花束を抱えた店員が出てきた。
さきほどアントーニョが注文した通りの白に3本だけ紅が混じった薔薇の周りをかすみ草で飾っている可愛らしい花束だ。
今日は急いどるからこれでな」
と、財布から札を出して店員に渡すと、アントーニョは花束を受け取って後部座席に置き、また車を走らせる。
こうして花屋を後にして、また行く先のわからないドライブが始まった。
「薔薇…綺麗だな」
と、アーサはずっと黙りこんでいたために、いい加減乾いて半ばくっついてしまったような唇を動かす。
そして
「ここはええ花置いとるからな。大事な用ある時はここで買う事にしとるんや。
天使ちゃんは薔薇好きなん?」
と、自分のチョイスを褒められたからか機嫌よくそう応えるアントーニョに
「ああ、花の中では一番好きだな。特にこの白い薔薇、すごく綺麗だ」
と、微笑んだ。
白い薔薇はとても好きなのだが、この薔薇はその中でも本当に綺麗だと思う。
花を持って訪ねる相手はやはりレディなのだろうか。
こんなカッコいいトップアイドルにこんな綺麗な花を渡される相手は幸せ者だ。
そんな事を考えながらチラリと視線を向けると、信号待ちで少し視線をこちらに向けたアントーニョと目があい、
「天使ちゃんにはやっぱり白い薔薇似合うと思ったんやけど、天使ちゃんの方も好きなんやったら良かったな」
と、にっこり微笑まれる。
まあ確かに、ここまで綺麗な花束だと、自分宛てじゃないにしても眺めているだけで幸せな気分になる。
そんな気持ちをこめてにっこり微笑み返すと、アントーニョは少し驚いたように目を丸くして、それから破顔した。
そして
「もうすぐ着くさかいな。」
と、そこで信号が変わってまたアクセルを踏みしめる。
そのまましばらく走り続けていると、流れていく景色は街中から住宅街に変わり、やがて緑に囲まれた大きな教会の脇にアントーニョは車を止めた。
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