「着いたで。ここや」
と、短く伝えてアントーニョは後部座席の花束を手にすると運転席を降り、助手席側に回りこんで助手席のドアを開けて、アーサーに向かって手を差し伸べる。
ございますとつけようとして慌てて言葉を飲み込むアーサーに、アントーニョは満足気に頷くと、少し眩しそうに日差しを背に静かに佇む教会の建物を振り返る。
「ここ、俺の母親の一番上の兄ちゃんが買いとったもんでな。
まあ兄ちゃん言うても長男と末っ子やったしめちゃ年離れとって、俺の母親、兄ちゃんの息子より年下やったんやけどな。
今はその兄ちゃんの息子が隣に見えるあっこの家住んどってな、牧師やっとるんや。
で、そこん家の双子の息子とは親分、年は2歳しか違わんし、兄弟みたいに育っとるんや。
やから、ここは親分の本当の意味での実家みたいなもんや」
「…はあ……」
当たり前に入った上で当たり前にポケットから鍵を出し、当たり前に教会のドアを開けて中に入る。
「ここ買い取った一番上の兄ちゃんて、ちょっと事業で成功した人なんやけどな、まだ貧乏やった頃にここの牧師さんに世話になっとったんやって。
その後牧師さん亡くなってここが潰れそうになった時に買い取ったそうなんや。
で、しばらくはただ管理しとったんやけど、兄ちゃんの長男が牧師になって教会再開して、たぶん双子のどっちかが継ぐんやろうけどな」
そんな話をしながら、ずんずんと奥に進んでいくアントーニョ。
そして奥の祭壇の前で足を止めて、上を見上げる。
視線を追うようにアーサーも上を見上げると中央に大きな十字架。
その左右に綺麗なステンドグラスのはまった大きな窓。
そのおかげで、灯りを付けなくてもうっすらと明るい。
「ここは特別な場所や。
たまにな、色々嫌んなる時はここに来てこうしてこの十字架見上げとったし、芸能界関係の人間は記者はもちろん、事務所の社長やマネージャー、フランやギルちゃんにすら教えてへんし、連れてきた事あらへん。
天使ちゃんが最初で最後や」
と、そこでアントーニョはアーサーの方に向き直った。
「親分がどうしても欲しくなって、こんな世界に引きずり込んでもうて、堪忍な。
でもオーディションの時も言うたけど、全身全霊でいろんなもんから守ったるから。
おはようからお休みまでずっと一緒におって世話したる。
せやから親分の事信じてついて来たってな?」
0 件のコメント :
コメントを投稿