ヒロイン絶賛売出し中4

「あ、あのっ…アントーニョさん、これってマズイんじゃ…」


電話を切って20分後。

着替えてアントーニョの運転する愛車の助手席に押し込まれたアーサーが慌てて言うと、アントーニョは変装用にかけているサングラスを少しずらして、その綺麗な翡翠色の目でいたずらっぽく笑う。


そしてアーサーの言葉をスルーで

「その呼び方あかんわ。トーニョって呼んだって。敬語もあかん。
可愛い天使ちゃんにそんな他人行儀にされたら、親分泣いてまうわ」

と、ツンと指先でアーサーの鼻先をつついた。



「え、でも……」

さすがに大先輩にそれは…と、躊躇するアーサーに、アントーニョは今度は少し困ったように笑う。


「親分がそうして欲しいっちゅうのが一番の理由やけど…それおいておいても、事務所の売出し方針が『親分が可愛がっとる後輩』やから、そんな関係でさん付け敬語っちゅうのも、アレやしな」



ああ、そんな深い意図があったのか…と、それがアントーニョがたった今思いついた後付けの理由だと言うことなど当然知らず、アーサーはそんな事に全く気付かなかった自分を恥じた。

そして、なるべく事務所の方針という堅い理由で自分が緊張しないようにと、柔らかい説明をしようとしてくれていた(とアーサーは思っている)アントーニョの気遣いにただただ申し訳なく思いながらも感動する。



やっぱりアントーニョは優しい。

自分が思い描いていたあのスーパーアイドルの印象そのままだ…。



そんな事を考えているアーサーの目の前で、アントーニョは先ほどとは別の携帯を出して、どこかへ電話をかけている。


「オ~ラ、親分やで。ちょお時間外で悪いんやけどな、花束作っといてくれへん?
え?あ~そうやな、薔薇、赤い…いや、白の方が似合うか。
白い薔薇15本に3本の紅い薔薇混ぜたって。周りは適当な花でキレイにしてや。
ほな、これから向かうさかい、頼むわ」


と、話の内容からすると馴染みの花屋らしい。

これから誰かを訪ねるのだろうか…。




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