寮生はプリンセスがお好き5章_7

あらかじめ言われていたように、夕食の時間にはもう使用人は帰っている。
なので隣のキッチンからダイニングまで、料理を運ぶのは12年の寮長の仕事だ。

「少しだけフェリちゃんと待っててくれな?」
ちゅっとアーサーの金色の頭に口づけを落として隣の席から立ち上がるギルベルト。

そうしておいて、自分と反対側のアーサーの隣に陣取っているフェリに
「じゃ、フェリちゃん、うちのお姫さん頼むな?」
と言うと、その頭をポンポンと軽く叩く。

一方で銀竜寮の寮長のルークも
「じゃあ少し行って来るな?」
とフェリの頬の軽くキス。

「ということで、うちのフェリシアーノをよろしく」
と、アーサーにニコリと笑みを向けた。


金竜寮は相変わらずクールで
「じゃ、そういうことで~」
「うん、しっかり働いてね~」
とお互いヒラヒラと手を振るのみ。


問題は……

「や~なんだぞぉぉ~~!!!プリンセスの俺を1人で置いていくなんてダメなんじゃないのかいっ?!!」
と、力の限り香にすがりつくアルと

「だ~か~ら~~1人じゃねえ的な?隣に行くだけだしっ!!!」
と、それを引きはがそうとする香の攻防。


「あ~あ…」
と、苦笑する面々。

「笑ってないで助ける的なっ!!」
と、必死の形相の香に言われて、ギルベルトは仕方なく間に入る事にした。

「お~い、右向け右っ!」
と、両手でアルの頭をもって右を向かせる。

その向いた先にはぎゅっと互いの手を合わせて寄りそうフェリとアーサー。
2人は急に自分達に向いた矛先に不思議そうな眼をしている。

「あれが本当のプリンセスだ。
で?本来守ってやるカイザーが一時と言えどプリンセス達と離れないとならない状況で、貴様がやるべき事はなんだ?!ヒーロー!」
言われてアルはハッとした。

「そうだよっ!俺はヒロインを守らなきゃっ!」
パッと香から離れる手。

急いで逃げろとギルベルトは視線で香を促し、それを受けて香がキッチンへと駆け込んだ。
それを確認してギルベルトとルークもキッチンへ。


そんなドタバタな一幕もあったが、まあ夕食は平和だった。

秘かに薬に詳しいフェリシアーノの様子を見ていると、毒や薬のような物が入っている様子はなさそうで、それはきちんとシェフによって作られているものだったので、普通に美味しい。

さすがに食事中は空気を呼んだようで、3年生組も特に不気味な話をすることもなく、普通に今後の学園でのイベントや成績の話など、ごくごく普通の会話をしつつ和やかに食事終了。

洗い物は明朝使用人がするということで食器はそのままで、さあ各自部屋に帰ろうと立ち上がった段になって、どうやら始まったようだ。

「ちょっと待て。
危ないから部屋に戻るのは全員で。
俺らは主催だから全員を送ってから戻るな」
と、意味ありげに言うカイン。

香の隣で満腹でご機嫌だったアルの顔がこの時点で引きつって、お化けより怖い自寮のプリンセスに香の顔も引きつって行く。

「もう幽霊タイムだから…な。
俺はここに来るの初めてだからまだ見た事ないんだが、支度をさせた使用人達は見ちまってな…中には病んでやめた奴もいて、使用人全員ここで夜を過ごすのが嫌だとか言って通いになったから…。
お前らも部屋についたら絶対に外に出るなよ?」

というトドメ。

幽霊に殺される前に金狼寮寮長は自寮のプリンセスに殺されかけている。

助けてやらないと…と一瞬思うが、ぎゅっと自分の腕を握る小さな手に力がこもった事に気づいて、ギルベルトはあっさりと同級生を見捨てる決意をして、行きと同様、大事なプリンセスを抱き上げた。

結局3年生組に救出された香。

アルは銀虎寮の寮長のユーシスにしがみついてはいるが、香と違って加減はしているらしい。
歩きにくそうではあるが、ユーシスはなんとか下級生の巨体を引きずりながら進んでいた。






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